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水谷利権をめぐる20億円の裏金捜査のはずが… 福島県知事汚職事件が特捜の“大汚点”となった顛末

『泥のカネ 裏金王・水谷功と権力者の饗宴』より #9

2021/02/22

source : 文春文庫

genre : ニュース, 社会, 政治, 経済, 読書

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水谷功の本当の狙い

 東京高裁は土地を現金化できたことが賄賂にあたる、と辛うじて収賄行為そのものを認めたものの、検察側にとっていかにも厳しい裁判所の認定である。そうして、この福島県知事汚職事件は、いまや大きな捜査の汚点の一つに数えられるまでになってしまう。

 ただし、水谷功が見返りも期待せず、土地を買い上げてやるほど人がいいか、といえばそうではない。

「もともと知事に近づこうとした目的は、木戸ダムの受注だけではない。それよりむしろ、原発における知事の立場が問題だったのではないでしょうか。福島では第一、第二ともに原発事故を引き起こしてきたうえ、測量データの改竄問題まで起きました。この間、東電は発電所の運転停止に追い込まれた。東電としては、青森・六ヶ所村の核燃料再処理施設やプルサーマル計画を立ててきました。しかし、福島県の佐藤知事は原発反対に転じ、プルサーマル計画をストップした上、県内の原発運転再開の目途すら立たなかった。東電が弱り果て、そこからいろんな動きがあったのだと思います」

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写真はイメージです ©iStock.com

 そう解説するのは、ある検察OBだ。ここで、東電の相談相手であるフィクサー、白川司郎の存在が浮かんだ。水谷建設が福島第二原発で残土処理を引き受けたのも、白川をとりまくこのあたりの事情と無縁ではない。福島県知事の捜査について、原発反対の福島県知事を狙い撃ちにした東京地検の国策捜査だという評判も立った。だが元来、知事に対する特捜部の見方は違った、と検察OBが続けた。

「水谷建設を脱税で摘発した当初の特捜部の狙いが、東電がらみにあったのは間違いありません。そこでは水谷が原発反対の知事を懐柔するため、知事に近づいたという事件の見立てだった。捜査の成果はともあれ、実はその見立てのほうが正しかったのではないでしょうか」

 しかし結局、東電への捜査は沙汰やみになり、事件は水谷と知事側との不可解な土地取引という賄賂へ矮小化されてしまう。しかも結果的に知事の汚職事件における賄賂性はずいぶん薄まった。

 水谷功の土地買収が、知事に見返りを期待していなかったわけではない。水谷功は策をめぐらせ、必死に建設業界の暗流を泳いできた。そこから魑魅魍魎が顔を出してきた。

【後編を読む】

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