2月5日、東京・築地本願寺では97歳で天寿をまっとうしたある銀行家の葬儀がひっそりと執り行われていた。住友銀行の頭取、会長を歴任した巽外夫の葬儀だった。

“ラストバンカー”と呼ばれ、昨年9月に亡くなった西川善文(元三井住友銀行頭取)に次ぐ、巽の死によって、戦後最大の経済事件“イトマン事件”に深く係わった住友銀行頭取はいなくなった。

1月31日に亡くなった巽外夫・元住友銀行頭取。2月5日にひっそりと葬儀が行われていた ©時事通信社

 しかし、コロナ禍とはいえ、巽の葬儀はある意味、異様な葬儀だった。かつて大物と呼ばれた銀行家が亡くなったのは1月31日。その事実ばかりか、葬儀の日程など一切マスコミに明らかにされなかった。

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家族はなぜ葬儀の公表を拒んだのか

 筆者が巽の逝去、そして葬儀を知ったのも偶然からだった。

 その日、筆者は取材の関係で通信社幹部と携帯電話で話していた。すると、その通信社幹部がこんなことを言うのだった。

「今、築地本願寺の前を歩いているんだけども、タツミの葬儀をやってるみたいなんだよ……」

 かつて金融記者としてならしたその通信社幹部がいう“タツミ”は住友銀行の元頭取、巽に違いなかった。その情報のプロである彼でさえ、巽の逝去を知らなかった。

築地本願寺 ©文藝春秋

「タツミ」

 と聞かされ筆者の脳裏に浮かんだのは、その表情とともに「まだ生きていたっけ……」というものだった。半信半疑のまま筆者は日経新聞の金融担当幹部に連絡を取った。巽逝去を確かめる為だった。

「エっ? 巽がですか?」

 こうした反応でも分かる通り、日経新聞の幹部でさえ、巽の情報を持っていなかった。小一時間してその日経幹部から、「確認が取れました。やはり巽は亡くなっていました」との連絡を貰う。