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「たかが女性問題で……、イトマンは僕じゃなければ」
國重は図抜けた才の持ち主だった。
イトマン事件の前段となる「平和相互銀行」の合併劇において、大蔵省(現、財務省)、日銀、検察、そして佐藤茂という平和相互銀行の大株主だが、正体不明な怪人物らを向こうにまわして丁々発止のやり取りをしていたのが、わずか39歳の時だった。
すでにMOF担(大蔵省担当)として伝説ともなっていた國重だったが、平和相互銀行の合併事件、イトマン事件を通じて知らず知らずのうちに“けものみち”に深く入り込んでしまっていた。そこは普通の銀行員が立ち入らぬ場所でもあった。
“けものみち”が常態となっていた國重は、やはり巽の目には“まともな銀行員”とは映らなかった。
「たかが女性問題で……、イトマンは僕じゃなければ処理できなかったじゃないか……」
國重はふとこんな言葉を漏らすことがあった。やはり銀行員であり続けたかった國重にとって、巽は許し難い存在だった。その積年の思いが表出したのが、先のフェイスブックへの書き込みだった。
かつての闇の勢力の恐怖におののき続けた元頭取の一家、かたや今も私怨を抱えて生きる元バンカー。巽の死を以て、國重の自伝的な本でもある『堕ちたバンカー』の出版を以て、イトマン事件というバブルの清算がようやく終わるのだろうか。
ちなみに2月6日の日経新聞の朝刊は巽の逝去を1面4段のスペースで報じた。その最終面の40面には『堕ちたバンカー』の広告がデカデカと掲載されていた。バブルの呪縛はやはり因縁めいている。
(文中敬称略)