みかというキャラクターにも背景があった。母一人子一人の環境で育ったみかは、4年制大学卒業後、百貨店の管理部門に配属。エリートコースを15年間歩んできたものの、倉庫への出向を余儀なくされる。
のちに、管理部門の同期だった前園(山崎樹範)も出向してくるのだが、男の前園には“課長”の役職が付く一方で、みかは“平社員”の立場だったのも、やるせなさを増幅させた理由だろう。母の病気が発覚してもなお、みかを東京に留まらせていたのは「これからは女の子も学歴をつけて、経済的に自立をしないといけない」という母の言葉だ。
田舎へ帰る前夜、みかは新たちに本音をポツリとこぼしていく。母と一緒に暮らしたかった、でも負けて帰るわけじゃない、それだけはそう思いたい。
同じく田舎から上京してきた身なので、ここのセリフが痛いほどに分かるのだが、地方出身者から見た“東京”の価値は時代が移ろっても変わらない。地元にはないものが東京にはあり、地元では成しえないことを成しに東京へ向かう構図は、今も昔も同じだ。人生の半分以上を東京で過ごしたものの、結果的には“なにも成せず”に、シジューの身一つで田舎へ帰るみかの心情は想像に難くない。
人生は「勝ち」「負け」で測るものではないというアンサー
「勝ちとか、負けとか、そんな風に括らなくてもいいんじゃないかな」
「最初から、そんなのないって思えばいいんだと思う」
そのときの新の言葉は、みかへのエールというよりも、自分自身に向けた言葉だったのかもしれない。順調に上っていたキャリアの梯子を突然外されたのは新も同じだ。大好きなアパレルの仕事から出向を命じられ、恋人には結婚を破談される。金なし、夢なし、男なしの三重苦の中で出会った「OLD JACK&ROSE」にて、活気を取り戻していくと同時に知ったのが、多種多様な生き方だった。
ブラジルから単身で日本へ渡ったジルバ、戦争孤児だったくじらママとマスター、男に騙されて全てを失ったエリー、捨て子だったナマコ……。それでも明るく笑って生きる先輩たちの姿を見て、人生は「勝ち」「負け」で測れるものではない、測るべきではないことに気付く。シジューの新がたどり着いたアンサーは、世知辛い社会を懸命に歩む、同い年のみかとスミレの生き方をも肯定するものだった。
『逃げ恥』の百合ちゃん曰く、私たちの周りにはたくさんの呪いがあるらしい。呪いはいとも簡単に私たちの足を絡めとり、次第に“生きづらさ”となってのしかかる。日常のふとした瞬間にかかる呪いがあるのならば、なにげない言葉で解ける呪いもあるだろう。
「OLD JACK&ROSE」で生きるホステスたちや、百合ちゃんのように、誰かの生きづらさを軽やかにするような大人を目指したい。まずは怠けきった体に鞭打って、週一回のトレーニングから始めてみることにする。