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「身体捜検」で明らかになった町長の刺青
全国の警察本部には暴力団による犯罪を捜査する部署が整備されている。例えば警視庁には「組織犯罪対策部」が設置されており、内部では「組対(そたい)」と呼ばれている。暴力団による対立抗争事件や殺人、傷害、恐喝などの事件の担当は組対4課だ。
ただ、暴力団と縁遠そうな、政治家や公務員の汚職、詐欺事件など“知能犯”を担当する捜査2課の幹部から、刺青の話を聞いたことがある。
その体験を明かしてくれたのは、長年、知能犯捜査を担当してきた警察当局の捜査幹部OBだった。
「ある地方の町長について長期間、内偵捜査を続けて特定の業者に便宜を図った見返りに賄賂として現金を受け取っていたことが分かった。ある日、町長に任意同行を求め事情聴取の末、容疑が固まりこの町長を逮捕した。ところが、逮捕後の身体捜検で背中に立派な刺青が入っていたことが分かった。これには当時の捜査員みんなが驚いた。びっくり仰天だった」
「身体捜検」とは、逮捕後に容疑者の身体的な特徴を確認することを指す。容疑者に対して逮捕状を示して執行し手錠をかけて、留置関係の手続きに移るが、容疑者の顔写真撮影、指紋採取などが行われた後に、服を脱がせて体の手術痕、傷などの特徴について確認するのだ。長期間にわたって内偵捜査を続けていても、町長の背中の刺青までは気付けなかったというわけだ。
この事件は、元ヤクザが町長になったという結末だったが、捜査幹部OBはこのように述懐した。
「後にも先にも逮捕した首長の背中に刺青が入っていたのはこの事件だけだった」(敬称略)