厳しいことを言う時のツンデレ・クロージング
人間、相手が誰であろうと、厳しいことを言って嫌われたり恨まれたりはしたくない。でもコールセンターには、どんなに厳しい交渉をしても、なぜかお客さまから好かれてしまう「凄腕の交渉人」が存在する。
コールセンターの債権は、延滞している期間によって「初期延滞」「長期延滞」に分けられていた。
延滞して間もない「初期延滞」の督促は、とにかく量をさばくことが重要。ついうっかり忘れているお客さまが大半なので交渉の難易度もそれほど高くない。
初期延滞で入金されなかったものは「長期延滞」となり、百戦錬磨の経験をもつ「高難易度債権交渉チーム」の手に渡る。
群を抜いて回収率が高かったT田さん
海千山千の交渉チームの中でも、群を抜いて回収率が高かったのがT田さんという30代前半の男性社員だった。彼は支店勤務時代にその支店の債権を一人で全て回収してしまったという伝説をもつ男性だ。
T田さんは高そうなスーツを着こなした、いかにも仕事ができそうなタイプ。決してお客さま相手に怒鳴ったりはしないけれど、なかなか入金してくれない難しいお客さまを相手にしていることもあって、T田さんの周りの空気はいつも張り詰めていた。
でも不思議なことに、T田さんはお客さまに大変人気があった。「T田さん出して! 私はT田さんとしか話さないわ!」と指名の電話が入ることすらあった。
(なんであんなに厳しい交渉をしているのにお客さまに好かれるんだろう……)
気になった私は、こっそりとT田さんの席の隣に陣取り、仕事をしながら交渉の様子を観察する作戦に出た。
さりげなく聞き耳を立てていると、T田さんの電話は淡々と続いていく。
「ですからお客さま、支払えないではこちらも困るんですよ。なぜ支払ってくださらないのですか?」