「人見知りで話しベタで気弱」を自認する新卒女性が入社し、配属されたのは信販会社の督促部署! 誰からも望まれない電話をかけ続ける環境は日本一ストレスフルな職場といっても過言ではなかった。多重債務者や支払困難顧客たちの想像を絶する言動の数々とは一体どんなものだったのだろう。
現在もコールセンターで働く榎本まみ氏が著した『督促OL 修行日記』から一部を抜粋し、かつての激闘の日々を紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)
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約束日時は相手に言わせる
「入金の日にちと入金の根拠は絶対にお客さまの口から言ってもらうこと!」
「は、はい……!」
私がコールセンターに配属されたてで、まだ何もできなかった新人時代。先輩からお客さまに電話した時に「これだけは死んでも聞け!」と言われたのが、この2点だった。
なぜ入金日と入金根拠をお客さまの口から言ってもらうのかというと、万が一入金の約束を破られてしまった時に、お客さまの口から日時を言ってもらっていれば「お客さまがおっしゃるからお待ちしていたのに~」と相手の罪悪感をちょっぴり刺激することができるのだ。
私の働くコールセンターでは、入金の約束をしたお客さまが、その約束を守ってくれる確率は約6割。4割は約束を破る、だから約束を破られた時のために、あらかじめ交渉の材料を用意しておくことはとても重要だ。
「罪悪感」を利用する
約束を破られた直後はある意味チャンス。
約束を破った直後に電話をすると、まだお客さまの心の中に「約束を破ってしまって悪いな」という負い目がある。そこで交渉にその「罪悪感」を利用する。
私が督促ができなくてもがいている時に出会った、心理学の名著『ブラックメール――他人に心をあやつられない方法』(スーザン・フォワード著、亀井よし子訳、日本放送出版協会)という本の中に、人間がつい無意識に動かされてしまう三つの感情が紹介されていた。その三つとは「恐怖心」「義務感」そして「罪悪感」だった。
言われてみれば回収ができる先輩たちは、たしかにお客さまに入金してもらう時にこの三つの感情を絶妙な加減で刺激している。