アイドルとして人気を集めたのち、20代後半には、所属事務所の倒産をきっかけに独立したが、芸能界の不文律でテレビ出演を自粛せざるをえなかった。それもあって30代半ばまでは舞台を中心に活動する。
過呼吸発作に苦しむ中で野口が考えたこととは…?
そんな時期、ミュージカル出演中に過呼吸症候群で倒れてしまう。以来、発作を何度も繰り返すようになり、一時は引退も考えたという。心をコントロールするヒントを求めて、本を読み漁ったり、さまざまな人に相談したりもしたが一向に改善しない。しかし、あるとき、「治そうとするから苦しむんだ」と気づくと、フッと楽になった。以来、病気にあらがうのをやめ、発作が起こりそうになっても冷静に受け止めるよう心がけたところ、症状が好転したという(※4)。
加齢に対しても同様、あらがうのではなく、むしろそれを受け入れて上手に付き合っていくほうがよほど建設的だと考えるようになった。1998年には『芸能人はなぜ老けない』(ぶんか社)という著書も出している。
そんな野口が2018年、食道がんが見つかり手術を受けた。ちょうど西城秀樹が亡くなって間もない時期で、父親もがんで亡くなっているだけに、告知を受けたときには落ち込んだ。だが、家族の支えにより安心感を抱くと、ある種の覚悟ができたという。昨年取材を受けた週刊誌の記事では、《以来、ステージに立つたびに『これが最後だ』という覚悟をもって、歌えるようになりました》と語っている(※2)。
そこへ来てのコロナ禍で、歌手活動も大きく制限された。アプリを開発したのには、そうした状況に対する危機感もあった。《このままでは芸術が滅んでしまう》と、国会議員や自治体の首長らをまわって、アプリの導入を訴えてもいる(※5)。
テイクアウトライブを開発したきっかけには、10数年前、冬空の下で若い路上ミュージシャンのライブをたまたま観て、彼らに未来を残したいと強く思ったこともあったという(※6)。野口がそんなふうに自分だけでなく、有名無名問わずほかのアーティストたちのことも考えて行動しているのも、やはり自分が幾度も挫折を経験してきたからだろう。彼のつくったアプリが、アーティストたちの、そして音楽の未来のためにも力を発揮することを願ってやまない。
※1 『毎日新聞』2020年12月9日付夕刊
※2 『女性自身』2020年5月12・19日号
※3 『文藝春秋』2012年5月号
※4 『ゆうゆう』2009年3月号
※5 『朝日新聞』2020年12月31日付朝刊
※6 『週刊文春』2018年6月7日号