もう30年近く前だと思うが、老後のための年金保険のCMで、歌手の野口五郎が現在の姿から老人へと変身したかと思うと、テロップの名前も「野口ごろう」の「ご」の字が移動して「野口ろうご」に変わるというのがあった。
いまや企業の定年も従来の60歳から65歳、さらには70歳へと引き上げられるなど、社会全体で「老後」はどんどん先延ばしされつつある。野口五郎もきょう2月23日に65歳の誕生日を迎え、今年はデビュー50周年の節目でもあるが、まだ十分に現役として活躍し、老後と呼ぶには程遠い。
その野口の活躍は本業にとどまらず、昨夏には、新型コロナウイルス対策のスマホアプリ「テイクアウトライフ」を開発して注目された。ライブ観覧などの際、会場に掲示されたQRコードをこのアプリで読み取れば、感染者が発生した場合、緊急通知を受け取れる。政府の通知アプリ「COCOA」とは違い、接触した場所がわかるのが利点だ。すでに野口自身のディナーショーのほか、飲食店、大相撲初場所でも導入されている。
以前にもアプリ開発に携わっていた野口
じつはこれは、野口が以前開発した「テイクアウトライブ」というアプリを発展させたものだ。こちらは、QRコードが印字されたカードをライブ会場で購入してスマホで読み取ると、終演後にライブの映像が送られてきて、文字どおりライブを“お持ち帰り”できるサービスである。
テイクアウトライブは、DREAMS COME TRUEやAKB48などほかのアーティストのライブでも導入された。コロナ禍で公演の中止や延期が続くようになってからは、活路を開く手段として利用者はさらに拡大しているという(※1)。
もともと野口は若い頃から自分で音響機材を操ってレコーディングを行なうなど、技術的にもさまざまな挑戦をしてきた。だが、CDが登場してデジタル化が進むなかで、コンテンツをつくるアーティストと、そのコンテンツを売ってビジネスをする人たちとがはっきり分かれ、後者がイニシアティブを握るようになる。
野口はこうした状況に対し、不安を持ったという。音楽業界の将来を憂慮し、もっとアーティストが適切な利益を得たうえで、ファンとのつながりも深められる方法はないかと模索するうち、ひらめいたのがテイクアウトライブのアイデアだった。