孤独にも強弱がある
──スナックを出たアダチさんにママが差し出した「お得なカード」は、私もほしくなりました。こういうリアルさを感じるのは、益田さんご自身の経験も描かれているからですか。
益田 フィクションなのでわたしの経験ではないですが、どれも自分の経験のような気持ちになって描いていました。
作中にメイちゃんという女子高生が出てきます。母親に、自分のお弁当箱くらい自分で洗いなさいと注意されますが、そんなのはわたしの仕事じゃない! という態度。思い返せば、若い頃のわたしもそういう態度で親に接していた時期がありました。時間とともに、なんて傲慢だったんだろうと呆れることがあります。
──メイちゃんのお母さんのミナミさんが主人公の回もありますね。
益田 ミナミさんも、 「スナック キズツキ」の客のひとりです。彼女はヘルパーの仕事をしていて、利用者さんから心ない言葉をかけられることもあります。家に帰れば子供たちは反抗期の真っ最中。ミナミさんは、どうしようもない孤独感に襲われます。そんな時に「スナック キズツキ」で、「はい、今日もおつかれさん」とママに飲み物を出されて、張りつめていた気持ちに「しなり」ができる。孤独にも強弱があり、人はそんな流れの中でなんとかやりくりしているのではないかと思います。
「どうせわたしなんか」というセリフはさみしいじゃないですか
──「孤独にも強弱」があるというのは目からウロコです。作品やキャラクターを考える時に益田さんが一番大事にしていることはどんなことですか。
益田 「なにを言わない人間か」というのは大切にしています。たとえば、「どうせわたしなんか」というセリフは登場人物に言わせないようにしています。なんか、さみしいじゃないですか。わたし自身も言わないです。
──それは大事なことですね。たとえ傷つくことがあったとしても、「どうせわたしなんか」と思わずに、『スナック キズツキ』を開いてお店に行きたいと思います。
益田 本を読んだり、映画や芝居を観たり、外側にある物語にわたし自身励まされることがあります。つらいとき、それが自分の「手すり」になるのではないかと思います。
描き上げてみれば、どの客も歌わされたり、踊らされたり一息つくどころじゃありません。でもすっきりして帰っていきます。ぜひ漫画『スナック キズツキ』ご来店いただきたいです。
【マンガ】『スナック キズツキ』より、第2話「アダチさん」を読む