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“ドアパン”されてムチ打ちに!? 保険スタッフが明かす「過剰請求」を謀る“ヤバい”客

自動車事故、保険金交渉の実態―― #1

2021/03/02
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「新車特約」の落とし穴

 保険会社は多くの場合、「新車特約」というものを用意している。大雑把に言えば、「新車を購入してから数年の間は、全損レベルの事故に遭っても、同等のクラスの新車に乗り換えられる」という特約であるが、正しい条件を把握できていない契約者も多い。

 新車特約の対象となるのは「全損」または「修理費が設定金額の50%を上回る」場合である。たとえば300万円の車であれば、修理費が150万円を超えた際、300万円相当の車に乗り換えられるということだ。

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 ややこしいのは、この「設定金額」は「購入金額」とイコールではなく、車種ごとに設定された価格帯のうちから、契約者自身が選択した額だという点である。たとえば購入額が300万円であっても、補償金額としては「250万円~350万円」の価格帯から5万円刻みで選択できる、といった形である。

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 補償額が自身で選べるとなると、上限いっぱいの価格を選択してしまいそうになるが、それは同時に新車特約の適用条件が厳しくなることを意味する。すなわち、上のケースで「350万円」を選択してしまうと、修理費が「175万円」を超えなければ適用されない、というわけである。

「過失10割」の事故で新車を要求するも……

 新車特約の価格設定において、「ちょっとでも高い額にしておこう」という考えが命取りになることもある。

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「こちらの契約者さん側が過失100%の、数台を巻き込む事故で。幸い大きな怪我人は出ずに、ほぼ物損だけで処理する形になったのはいいんですが……契約者さんが事故車を持ち込んだディーラーで、『修理費かなり行くんで、新車特約で買い換えられますよ』みたいな話をされていたらしく。こちらで見積もりを作ったところ、設定額の50%には届かなかったんですね。やっぱりそれで激怒され、『契約を遡って設定金額を低くしてほしい』と何度も要求されました」

 当然、時間を戻すことはできない。保険の条件はあらかじめ、慎重に選ばなければならないわけである。というよりも、この場合はもっと慎重に運転しなければならなかったのだろう。