「車で追突されたら病院で首の痛みを訴え続けろ」といった話を耳にしたことのある人は多いだろう。
保険会社からの保険金を増やす手段として、昔から「ムチ打ち」の診断が効果的であることが広く知られている。
もちろん、万が一にも後遺症が残らないようにするため、小さな事故であっても医療機関を受診しておくことは重要だ。とはいえ実際のところ、事故に遭ったことをこれ幸いと、保険金や慰謝料の増額を目的に通院期間を故意に延ばしたり、存在しない痛みや症状を訴えたりといったことも横行しているようである。
現実の保険交渉の場面で、事故に乗じて怪しい申告をしてくる者はどれくらいいるのだろうか。ムチ打ちをはじめとする「過剰請求」の実態について、保険会社で契約者や相手方との支払い交渉を担当する部署(サービスセンター:SC)のスタッフに話を聞いてみた。
ムチ打ちの割合は圧倒的
結論から言えば、やはりムチ打ちの申告は保険交渉の「定石」となっているようである。
「ムチ打ちは本当に多いですね。最初にこちらから怪我の有無について確認するんですが、そのときは快活に『大丈夫!』と言っていても、『やっぱりなんか首が痛いような気が……』と言ってしばらく通院されるケースもよくあります。もちろん、実際に後から痛みが生じる場合もあるので、そのときはすぐに医療機関を受診してほしいと思います。でもやっぱり、割合として多すぎる感じはしますね」
一旦「大丈夫」と言ったはいいが、周囲から唆されて……というケースもあるのかもしれない。
警察庁発表の「令和元年中の交通事故の発生状況」によれば、自動車乗車中の事故による軽傷者は「28万579人」である。このうち、頸部(首)に軽傷を負った者は「22万4858人」で、割合としては8割にものぼる。
頸部損傷者のすべてが「ムチ打ち」ではないと考えても、かなりの割合である。
しかし、そもそもなぜ、保険交渉の際にムチ打ちの申告が定番化しているのだろう。