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10年以上にわたる粘着電話、事故を理解できない高齢者…保険金交渉現場の異常なやりとり

自動車事故、保険金交渉の実態―― #2

2021/03/02
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 相手が任意保険に加入していれば、修理費などを相手方の保険会社に請求できるが、未加入の場合には事故の当事者同士が直接示談交渉を行うことになる。専門家ではない者同士のやり取りのなか、請求が踏み倒されるケースも多いわけである。

「逃げ得」を防ぐ方法は

 しかしもちろん、このような事態に備えることもできる。

「過失ゼロの示談交渉には介入できませんが、こちらのお客さん(被害者側)が車両保険に入っている場合は話が違ってきます。こちらの車両保険を使って修理をするとなると、本来相手方に賠償責任のあるものを会社側で立て替えているような形になるので、結局は相手方に会社から請求することになるんです」

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 個人間のやり取りにおいては支払わせることができなくても、車両保険によって修理費は賄うことができる。請求者が保険会社となることで、「逃げ得」も通用しにくくなるわけだ。支払いが滞る場合には、保険会社の債権管理を専門とする部署に案件が移行する。

「ただ通常は、車両保険を使うと等級(保険料の割増引率を定めるための区分)が3つ下がってしまいます(*)。それが揉める原因になることもやっぱりありますね。過失ゼロなのに等級を下げなきゃいけない、っていうのは理不尽な話ですが……」

* 過失がゼロの事故で車両保険を使った場合に、等級を下げずに済む特約として「車両無過失事故特約」がある。保険会社によって、車両保険を付けることでこの特約が自動付帯されるタイプと、別途選択するタイプとが存在するが、現在では「自動付帯型」の割合が増加している。

事態の悪化を未然に防ぐ弁護士費用特約

 事故の被害に遭った側なのに、月々の保険料が上がる、というのは確かに納得できる話ではないだろう。こうした事態を防ぐためには、あらかじめ弁護士費用特約をつけておくとよい。

©iStock.com

「弁護士費用特約を使えば、過失がゼロの事故に対しても、弁護士が示談交渉を担当してくれるので、保険未加入の相手から修理代を回収できない、というリスクを減らせると思います」

 特約をつけることで上昇する保険料は、月々数百円程度のことが多く、負担は少ないと言う。

「損害保険料率算出機構」の調査によれば、2019年3月の時点で、全国で保有されている自動車の数は約8179万台。このうち任意保険または共済に加入している台数は約7211万台であり、1000万台近くが任意にも共済にも入っていない計算である。これを見ると、弁護士費用特約はもはや必須のように思えてくる。

 加害者側であれ被害者側であれ、事故の可能性と無縁ではいられない。“ヤバい”事態に巻き込まれないためにも、一運転手として安全運転の徹底に努めたいものである。

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