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10年以上にわたる粘着電話、事故を理解できない高齢者…保険金交渉現場の異常なやりとり

自動車事故、保険金交渉の実態―― #2

2021/03/02
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「俺は刑務所にいたんだぞ」

「今からそっち行ってやるからな、みたいな脅しはしょっちゅうですね。あとは、反社組織とのつながりを匂わせたり。『俺は刑務所にいたんだぞ』っていうパターンもありました」

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 ムショ暮らしでハクがつく、というのはどこの世界の話だろうか。要求が通せないことに苛立ち、暴力性をアピールすることで相手を屈服させようとするわけである。しかし、そうした単純な威嚇行為には保険会社も慣れっこのようだ。

「ハッタリかどうかは大体わかりますね。実際に突撃してくる人は見たことがないですし……。担当を男性に代えた途端に、しおらしくなるケースも多いですね」

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10年以上にわたる電話攻撃も

 事故処理が終わり、補償が済んでからも、その内容に納得できない客から、担当者個人に対する苦情の電話が続くことは珍しくない。なかには、嫌がらせに生涯を捧げんばかりの執着ぶりを見せる者もいるという。

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「この部署にいれば『鬼電』は誰しも経験していることなんですが、10年以上も同じお客さんからの苦情電話に悩まされている社員もいます。あとは、何度か転勤しているベテランの方で、その都度転勤先を突き止められて電話攻撃を受け続けている人もいますね。本人は取り次ぎ拒否してるんですけど、その分ランダムに電話が鳴るので、取った人は少なからず業務に支障が……」

 10年経っても晴れない恨みというのは、どれほどのものだろう。「保険会社に人生を狂わされた」という話は、創作などで目にすることはあるけれども、実際にそのような思いに囚われている者もいる。そうした恨みを、個人が一身に引き受けることになるというのも酷な話である。