地方や被災地への訪問を継続できないことは「大きな危機」
ところで、私がこの誕生日の記者会見のなかで注目したのは、オンライン行幸啓の部分である。新型コロナウイルスの流行によって、平成の天皇・皇后が積極的に行った地方や被災地への訪問はできなくなってしまった。いわゆる「平成流」が人々の大きな支持を得ていたなかで、それを継続できないことは天皇制にとっても大きな危機であると思われる。
天皇はすでにこの新型コロナウイルスが流行のきざしを見せ始めていたころからこの問題に関心を寄せており、昨年の誕生日の記者会見でも「現在、新型コロナウイルスの感染拡大が懸念されていますが、罹患した方々と御家族にお見舞いを申し上げます」と言及したり、愛子内親王の学習院女子高等科を卒業する際にも卒業式を欠席し、その時の「ご感想」でも新型コロナウイルスの感染拡大について述べたりするなど、強い意識を有していたことがうかがえる。
それは、おそらく今回の誕生日の記者会見の冒頭で述べられた、過去の天皇の「ご事績」とも関係するだろう。天変地異や疫病が蔓延するなかで、過去の天皇は様々な祈りの行為を行ってきた。それこそが「象徴」という立場にふさわしいと、平成の天皇も皇太子時代に言及しており、また徳仁天皇も同じように皇太子時代に述べていた。日本中世史を専攻し、若い頃から過去の天皇の「ご事績」を学んでいた天皇らしい言及でもある。「その精神は現代にも通じる」と強調した天皇は、昨年4月より関係者からの「ご進講」や「ご接見」のなかで、新型コロナウイルスに関する様々な状況を聞くようになった。それは、感染状況など直接的な問題に留まらない。介護現場や障害者施設、生活困窮者や子どもの貧困など、新型コロナウイルスの流行によって様々に影響を受けた場所や人々の状況を知ろうとしたのである。その数は昨年だけで十数回に及ぶ。
オンライン行幸啓で、回復途上の雅子さまも一緒に人々とご交流を
そして重要なのは、天皇と皇后が一緒に並んで説明を受けている点であろう。同じ机に座り、マスクをして説明を聞いている天皇と皇后の姿が公開された。未だ病気の回復途上にある雅子皇后が公務を万全にこなすのは難しい。しかし、この新型コロナウイルスをめぐる対応では、基本的には天皇と皇后が並んで、一緒に行っている。
天皇はその後も、8月15日の戦没者追悼式での「おことば」でも新型コロナウイルスの問題に触れ、その後、11月18日からはオンライン行幸啓を行っていく。東京の日本赤十字社医療センターほか、北海道・福島・沖縄の地域拠点病院を視察した。オンラインだからこそ、遠く離れた地域を1日でめぐることができたのである。このオンライン行幸啓でも、天皇と皇后は同じ机に座り、同じ画面を見ながら、人々と交流をした。