文春オンライン

機長を殺害したハイジャック犯にみる薬の副作用と刑事責任能力

『私が見た21の死刑判決』より#34

2021/03/27

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, 読書

note

浮かび上がった副作用の存在

 だから、この時点でもう診断結果が、真っ二つに分かれていたのだ。

 法廷でも、緊張のあまりか、ぎこちない態度と溜息混じりの証言をして見せる被告人。

 裁判所では、審理を中断して、精神鑑定を実施した。

ADVERTISEMENT

 ところが、ここでの鑑定においては、また別の診断結果がでたのだ。

 アスペルガー症候群──。簡単に言ってしまえば、自閉症と同様の発達障害の一種と診断したのだ。しかも、鑑定主文の被告人の刑事責任能力の有無については、白紙で提出。

「犯罪者のしかるべき精神治療施設の整わない現制度下において、刑事責任能力については言及したくない」

 と持論を展開して、ますます法廷を混乱させるばかりだった。

©iStock.com

 それにしても、自閉症の人間が堂々とハイジャックまで引き起こすものだろうか?

 そこで納得のいかない裁判所は、再度、審理を中断させて、鑑定を実施する。

 その結果、浮かび上がってきたのが、抗うつ剤SSRIの副作用だった。

 犯行直前までハイジャック犯を診療していた医師というのが、実は、複数の自著を持つほどの日本におけるSSRIの信奉者だったのだ。だから、重度のうつ状態と診断していた同医師は、国内未承認だったSSRIを医師の責任における処方によって、このハイジャック犯に服用させていたのである。

 この薬を服用していたことによって、「躁とうつの混ざった混合状態」が生じ、「犯行時の精神状態は、事物の理非善悪を弁識する能力が著しく減退していた」と判断されたのだ。

 こうした状態によって、いわば副作用的に攻撃性が増したり、自殺念慮が高まるとする報告は、すでにこの時点でアメリカでは相次いでいた。そのことは、既にハイジャック犯の弁護人によって主張され、証拠もいくつか提示されていた。