1ページ目から読む
3/4ページ目

死刑とクスリ

 たとえば、米国同時多発テロを題材にした『華氏911』で世界的に有名となった映画監督マイケル・ムーアが、その前作『ボウリング・フォー・コロンバイン』で取り上げた、コロラド州リトルトンで発生した高校銃乱射事件(99年)の首謀者がやはりSSRIを服用していたことが、ワシントン・ポストによって報じられている。

©iStock.com

 それ以前には、94年にはニューヨークで爆弾を仕掛けて48人に重軽傷を負わせた男性もやはり同剤を服用していたことが報告されている。

 89年には、SSRIを服用中の47歳の男性が職場で銃を乱射し、8人を殺害した上に自殺した事件が発生していた。

ADVERTISEMENT

 この日本版が、すなわち全日空機ハイジャック機長刺殺事件ということになる。

 判決でも、この鑑定結果が採用されて、減刑の対象となった。すなわち、本来ならば死刑であるべきはずのところを、SSRIによって刑事責任能力に欠ける状態にあったとして、無期懲役の判決が言い渡されたのである。

 もっとも、検察側も躁鬱の入り交じった状態であったことを認めて、最初から死刑の求刑を避けていた。

 従って、死刑相当事犯であることを認めながらも、薬の副作用を認めて減刑対象とした判決は、弁護側、検察側の双方がまるくおさまる結果となった。

 法廷でも、大袈裟な芝居をしているようにしか見えない緊張状態にあった──もっと端的にいえば、普通の人の言動からはかけ離れたところのあった被告人にとっても、治療に専念できる機会を与えられたことになる。

 この判決が、SSRIと犯罪の因果関係を認めた最初であり、死刑の回避の理由となっている。