瀕死の体で不敵な笑みを……
「“雁木のバラ”という人は、最後の最後までたいした根性者だったですよ。たしかに私らの撃った銃弾が当たって、ピョーンと海老のように飛び跳ねて倒れたんです。『これなら熊でも一撃だ』って、あとで検事からいわれたS&W45口径の拳銃でですよ。そこで私ともう一人とで、とどめを刺そうと日本刀を持ってヤツに近づいたんですが、バラは倒れながらも上半身を起こしたまましっかりとコルトの銃口を私らに向けてるんです」
バラに近づいた二人の刺客は、肝を潰してしまった。致命傷ともいえる銃弾が貫通したのに、苦痛に呻吟するどころか、バラは不敵に笑みさえ浮かべていたからだ。
〈これが“カレキのバラ”なんだ! そうだ、そもそもオレがヤクザになったのもこの人に憧れてのことだった……この男は最後の最後まで“カレキのバラ”だった!〉
刺客は、このとき改めて、“雁木のバラ”と道内のヤクザ・愚連隊から畏怖されている理由が心底理解できたという。
別の道内関係者がこういう。
「たしかに“雁木のバラ”は意識も薄れて、引き金を引く気力もなかったというのが本当のところでしょう。けど、いまも伝説として流布されているのは、このときバラが、近づいてきたヒットマンたちにあえて拳銃を撃たなかったのは、通行人に流れ弾が当たっちゃまずいと考えてのことだったというんです。それが証拠に、銃口はヒットマンにというより、空に向いていたというんです」
どんなに無茶苦茶なようでいても、昔の不良は筋が一本通っていた、ということであろう。
“雁木のバラ”の死は、「強いヤツは殺される」という不良界のジンクスそのままの死であったのかも知れない。
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