「オレは畳の上なんかで死ねるとは思ってませんよ」
最期をとげた事件の数日前、バラは“サムライ坊主”こと真照寺の松本住職を訪ね、酒を酌みかわしている。そのあと、夕方になり、ひと風呂浴びようと寺の近くの銭湯へ一緒に赴いたときのことだ。
バラが脱衣かごに背広を脱いで無造作に放ると、ドサッという大きな音が誰もいない脱衣場に響いた。いつも懐に持ち歩いている拳銃の音だった。
すぐに拳銃と察した住職が、
「なんだ、おまえ、そんなもん持って歩いたら、畳の上じゃ死ねないぞ」
とバラに声をかけ、諫めた。
「いやあ、先生、どうせオレは畳の上なんかで死ねるとは思ってませんよ」
自嘲気味の笑みを浮かべながら、バラは答えたという。
バラが拳銃を試射する場所は、国鉄函館本線の苗穂駅近くの踏切付近であった。長い貨物列車がガタゴト音を立てて走りすぎていくとき、その音にあわせて空き缶などの的を狙い撃つのだった。
捨て身のバラに、怖いものなど何一つなかったといっていい。その性根はすさまじかった。
ある日、バラがススキノの街を歩いていたときのことだ。何かの拍子で背広の内ポケットに入れていた拳銃が暴発してしまったことがあった。
「パーン!」という花火のような音に、道行く人はまわりをキョロキョロ見ていたが、バラは何食わぬ顔だった。そのままタクシーで雁来町の自宅へと戻り、
「おい、ヨードチンキと脱脂綿を用意してくれ」
と舎弟に命じてズボンを脱ぐと、弾丸が太股の内側を斜めに貫通した跡があった。
バラは少しも騒がず、針金の先にヨードチンキを塗った脱脂綿をつけると、それを傷跡に通す荒療治を一人でやってのけた。驚き、蒼ざめる舎弟を尻目に、バラは口笛を吹きながらその作業を続けていたという。
併せ持った豪胆さと繊細さ
一方で、バラはそんな豪胆さと同時に、繊細な感性をも併せ持っていた。当時の不良少年や愚連隊には決して珍しいことではなかったが、バラはギターを愛し、自らよく爪弾いて歌っていたという。
バラの十八番は、大好きだったという岡晴夫の『男のエレジー』で、聞かされた舎弟が思わず唸ってしまうほど、歌もギターもうまかったようだ。