DV被害を解決に導くべく、公認心理師・臨床心理士の信田さよ子氏が運営するカウンセリングセンターでは、被害者、加害者両者に向けたグループカウンセリングが行われている。
ここでは同氏の著書『家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ』(角川新書)を引用し、カウンセリングを通じてわかった現状の課題を紹介。DVの被害にあう人が一人でも少なくなる社会の実現に向けて必要な物事について考えていく。(全2回の2回目/前編を読む)
◇◇◇
殴られれば、誰もがDV被害者と自覚するわけではない
私が運営するカウンセリングセンター(以下センターと略)では、2003年からDV被害者のグループカウンセリング=AG(Abused Women’s Group)を実施している。
身体的暴力を受けていても、夫からの愛情表現だと考える女性は珍しくない。DV被害ではなく、不登校や引きこもりなどの子どもの問題行動や、夫婦関係がうまくいかないといった主訴で来談する女性も多い。センターで実施する教育プログラムのレクチャー受講や担当カウンセラーとのカウンセリングをとおして、夫の行為が暴力であったこと、自分がDV被害者であるという当事者性を獲得する女性は多い。
自らの被害者性を自覚し、DV被害者の当事者性を獲得することが、AG参加の前提になる。殴られれば、誰もがDV被害者と自覚するわけではない。ここまで繰返し述べてきたように、専門家もその行為を暴力ととらえなかった時代があったことに鑑みれば、来談者(クライエント)も同様であり、そのためには心理教育的なアプローチが大きな意味を持つ。
離婚がAGの目的ではない
平均参加者数は8名で、年齢は20代から80代までと幅広いが、40代~50代がもっとも多い。最大の特徴は、言語的・経済的などの非身体的なDV被害者が約3分の2を占めていることだろう。身体的DVによる外傷があれば、医師の診断書などのDV被害の証明が可能であり、公的なDV相談にもつながりやすい。有料であるセンターを訪れる彼女たちは、被害のわかりにくさゆえに公的相談を利用できないのかもしれない。夫との関係(生活形態)では、同居、別居(調停中、裁判中)、離婚の三種類だが、それぞれの形態に応じた問題が生じている。
ここで、離婚がグループの目的ではないことを強調したい。子どもの学校や高齢両親の介護との兼ね合い、さらには経済的不安などから、夫と同居を続行するほうがリスクは少ない、という判断も尊重しなければならない。公的機関主導のDV被害者支援が、とにかく逃げて、別れることを目的としていること、時としてそれがマニュアル化した対応になっていることの問題点を考えて、センターでは参加者の状況に応じた柔軟な対応を心がけるようにしている。