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「DVを夫の愛情表現と考える女性は珍しくない」   加害者プログラム参加男性の80%以上が持つ“ある経験”とは

『家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ』より #2

2021/03/10
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DV加害者へのアプローチ

 AGの実施に加え、2004年から実施しているDV加害者プログラムについても概説しよう。

 DV加害者プログラムの原型は、フェミニストたちの後押しで、1970年代末にアメリカで誕生した。そこでは、DVを疾病化・病理化する視点は、加害者を免責することにつながるために厳しくしりぞけられ、加害者は暴力を選択していること、だからこそ責任があるという「選択理論」を基本としていた。

 1980年代初頭よりエレン・ペンスらによるドゥルース家庭内暴力介入プロジェクト(Duluth Domestic Abuse Intervention Project)が開始され、現在多くの国で実施されているプログラムの原型となった。そこではフェミニズムの影響が大きく、暴力を犯罪として処罰する態度が貫かれている。

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「治療」や「なおる」といった医療モデルを前提とした言葉は使用しないが、しかし、更生や処罰といった表現だけでは言い尽くせないものが加害者プログラムには必要となるだろう。

加害者の変化を妨げているのは何なのか

 欧米のDV加害者プログラムでは、トリートメント(Treatment)という言葉が多用されているが、適切な訳語が見つかればこれを使用したいと思っている。

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 処罰的プログラムが果たして暴力防止に効果があるのかという疑問から、カナダやオーストラリアを中心として、脱ドゥルースモデルとして実施されているナラティヴセラピーの影響を受けたプログラムがある。A・ジェンキンスはその代表的存在であり、日本でも研修会が実施された。教え込むのではなく、彼らの責任意識を召喚(invite)することを基本とし、彼らの変化を妨げているのは何か、という点に着目したプログラムは独自のものがある。

 DV防止法には「○○をした場合はDVとして罰する」という想定はない。つまりDV罪は存在しないため、被害者の告訴なしに加害者逮捕はできない。これを親告罪と呼ぶ。カナダ、アメリカ、韓国などではDVは非親告罪であり、裁判所命令によるDV加害者プログラム参加を強制できる。このようなプロセスが踏めないため、私たちが実施するプログラムは、任意=自発的な参加者を対象とせざるを得ない。ジェンキンスの提唱するプログラムは、参加者の自発性を喚起する点において、日本の加害者プログラムが学ぶ点は大きい。