バイデン大統領が吃音に苦しんだ過去を持つことは日本でも話題となった。

 しかし吃音は決して遠くから眺めるような特殊な問題ではない。実は私達の日常生活に直結する身近な現象なのだ。この事を理解するには吃音者の語りを聞く必要がある。当事者であるぽん(@pon2202)氏にお話を伺った。

バイデン大統領

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――バイデン大統領就任の影響は感じますか。

ぽん 急速に知名度が広がってる実感はあります。吃音に関する記事が随所に散見されますし、僕の周りでも結構話題になりました。吃音がない人も話題にしやすい印象があります。

――吃音の方は全人口の1%とされますが、個人的にはもっと少ないように感じてしまいます。これはなぜでしょうか。

ぽん 試行錯誤の結果、症状を上手に隠せる人も多いし、吃(ども)る度合も頻度も個人差があるからだと思います。身近にいても吃音者の僕でさえ気付かないこともざらです。

自分の名前が一番苦手

――演説や演劇だと全然吃らない人もいるそうですね。症状を隠すとはどういうことですか。

ぽん 「今吃りそうだな」と思った時に、言いやすい言葉に言い換えるんです(例 「きのう」を「さくじつ」や「まえのひ」や「○曜日」と表すなど)。

 僕も常に頭の中に何個か出てくる言葉の選択肢を選びながら喋ることで、なるべく吃りすぎないように工夫しています。それでも上手く声が出ない時は、「えーと」と考えているふりをして時間を稼ぐこともありますし。 

――バイデン氏はスピーチで「オバマ」と言うべきところを「マイボス(私の上司)」と言い、「バイデンがオバマの名前を忘れる」という趣旨の記事(*)になったことがあります。

ぽん 名前を忘れたわけではなくて、「オバマ」と言えなかったから、「マイボス」という別の言葉に言い換えただけなのかもしれません。

 人名や地名などの固有名詞は言い換えられないので苦手な人が多いと思います。僕は自分の名前が一番苦手です。

――言い換えられないプレッシャーで、余計言いづらくなる?

ぽん そういう側面はすごくあります。自分の名前を忘れる人はほぼいないから何秒も考えるふりはできませんし。

――他にどんな工夫がありますか。

ぽん 僕は普段の関西弁から標準語の抑揚に変えると、急に滑らかに声が出たりします。また好きな芸能人に寄せるなど、誰かになりきって喋るのも一つの方法です。

*……「Biden appears to forget  Obama's name in latest blunder」、『foxnews.com』、2019年8月30日(2021年3月4日取得、https://video.foxnews.com/v/6079949740001