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 この幹部が「人の多さは人と人をつなぐ糸。揉め事が起きれば、この糸を手繰り寄せていけば、知っている人間に必ず当たる」と言うように、業界では一般社会以上に人のつながりが重要視されているらしい。何かコトが起これば、必ず誰かに「××の○○を知っているか?」と聞き、その知り合いが「まぁいいじゃないですか」と間に入ってくれれば、話がつけやすくなるという。人が多ければそれだけ手繰り寄せる糸も多くなる。

「人間性を信用してもらうため、日々の積み重ねが大変」

 暴力団業界の人気と信用は一般社会ではまったく通じない。高い認知度は逆に一般人を遠ざけてしまう。世間的には、最初から関らない方がいい、関り合いたくないと思われ、見て聞いただけで拒絶される存在がヤクザだ。

 そんな日常について、首都圏に拠点を持つ指定暴力団の幹部は「人間性を信用してもらうため、日々の積み重ねが大変」と腕を組んだ。

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「まず相手には怖い、騙されるという先入観がある。偏見だな。着ているコートを見て、『その服いいですね』と誉めただけなのに、『くれって言ってるんですか』と言われてしまう。誉め言葉も恐喝になるんだな」と、幹部は大笑いする。

 だが業界の中だけで生きているわけではないので、人からの信頼を勝ち取っていくため、日々の生活は努力の連続だ。

「一般の人は、我が身に何か大きな問題が降りかかりでもしない限り、ヤクザと付き合うようなきっかけはない。自らが信頼する人が“この人は大丈夫、いい人だから”“仕事ができる”と紹介したところで、間には見えないバリアがあり、高い塀が建っている。だから相手が建てた塀をコツコツと崩しながら、レンガを少しずつ積むように信用の壁をコツコツ築いていくしかないんだな」

 幹部はコツコツと口にしながら、レンガを一つずつ積み上げる真似をする。

©iStock.com

「裏の顔を見せないと、思っていたイメージと違うねとはならない。普通の人が会社で見せる顔が表なら、自分らにとってヤクザが表の顔。『悪い人かもしれない』から『悪い人じゃないかもしれない』へと変わるまで、信用の壁を積み上げるのは簡単ではない」(同前)