「身体を懸けて刑務所に入った組員に3年間、毎月20万を差し入れするとする。わかりやすくたとえると、それが20人の組ならば、組員1人当たりの負担は毎月1万円。その他、組にいればさまざま経費がかかる。1万円でも3年続くと負担になってくるものだ。これが300人いる組なら、組員1人につき1000円でも30万になる。幹部からは3000円として、20人いればそれだけで6万円。20万の差し入れをしても、残り16万円は組で貯蓄できる計算だ」
人が多ければ、それだけ組に金が集まる。余剰金は組の貯蓄に回り、組の福利厚生・互助システムにも回される。構成員が多ければ多いほど1人当たりの負担金は減り、補償もしっかりすることになる。もちろん、組員が少ないからといって、その組が身体を懸けた組員の面倒を見ないわけではない。金を持っていても、出し渋る組もあるらしい。
きっちり面倒をみてもらえる組なら、「オレが行く。他の者にあんな旨い飯は食わせられねぇ」と組員は自ら身体を懸けるという。
「見返りが欲しくてやるわけではない」という義理と人情はヤクザの建前だが、「組のために身体を懸けて1円も貰えなければ愚痴を言いたくなる」というのが彼らの本音だろう。銀行口座も作れない、クレジットカードも持てない組員にとって、差し入れは心の拠り所、残した家族の生活を支える頼みの綱でもある。
認知と人気は信用に変わる
面倒を見ない組の噂はあっという間に業界内に広がるという。刑務所に入っている者は余計、この手の噂に敏感になる。
「刑務所の中は毎日が嘘との戦い、嘘が現実にすり替わる。自分には金がある、高級車がある、立派な家がある、組が面倒みてくれると言う奴は多いが、差し入れのあるなしで、そいつの嘘はバレてしまう」(同前)
服役者は自分の房にいようと工場にいようと差し入れがあれば、受取印の代りに指印(しいん)を求められ、「お前みたいな者に20万の差し入れか」とあからさまに言われることもあると、幹部は人差指を立てて見せる。
「毎月、差し入れのある奴はうらやましいと思われ、あの組はいいと評判になる。人の口に戸は立てられない」
面倒をみない、ケチだと噂になると組としての信用もなくなる。仕事ができる、集金力があることだけが業界での信用につながるわけではない。
「認知と人気は信用に変わる。業界で生き残るには認知、人気に加えて、信用の3つが必要で、バランスが悪いと仕事にならない。認知が高いばかりで信用がないと、かえって仕事が難しくなる」