文春オンライン

「こういう状況になりましたが…」震災で娘を亡くした教師の私が卒業式でふりしぼったある言葉

『きみは「3.11」をしっていますか? ~東日本大震災から10年後の物語~』より

2021/03/11
note

突然、そして永遠の別れ

 震災当時、小学校低学年だったAさんには、とても仲の良いBさんという親友がいました。その時はたまたまささいなことをきっかけに、けんかをしてしまったのだそうです。謝りたいと思っていたAさんに、親友との突然のお別れがやってきます。Bさんは、津波に巻き込まれて亡くなったのです。「ごめん」を言えないままに永遠のお別れになってしまった2人。Aさんはそのことを悔やんでも悔やみきれず、そして、誰にもそのことを言えずに苦しんでいました。Bさんを思う、Aさんの気持ちに泣けてきました。そして僕が言ったことは、

「Bさんはね、きっとケンカしたことを怒ってはいないよ。それよりもAさんがBさんのことをずっと忘れず思い続けてくれていることをうれしく思っているよ」

 ということでした。そして付け加えたことは、

ADVERTISEMENT

「みんなも1年1年、歳を取っていくよね。きっとBさんはそんな君たちのことを見ていてくれるはずだから、みんならしく笑顔いっぱいに活動してごらん。それを見るのがたぶんBさんはうれしいと思うんだ。そして、時々、Bさんのことを思い出してくれればいいかな。そうだなぁ、成人式の時とか、みんなで思ってくれるといいかもね」

 Aさんの顔が見る見る輝きを取り戻しました。

 その晩、小晴にはAさんとのことを報告しました。にこにこ微笑む小晴の姿が見えたような気がしました。

 その後学校では、明るく頑張るAさんの姿を見かけました。

©iStock.com

 僕は、ある時までは、「亡くなった人の分も生きる」というようなことを言っていたように思います。そう思うことが、何よりも亡くなった人のためになると信じていたからです。そういう考え方も悪くはないと思うのですが、小晴のことを考える中なかで、他の人の人生を背負うことを重くとらえ、難しい顔をして生きていても、天国の人は喜ばないのではないかという考えにいたりました。だから、苦しい思いをしている人にはこう言うようにしています。

「他の人の人生を背負わないで。あなたはあなたらしく、あなたの人生を、笑顔で生きてほしい」

きみは「3.11」をしっていますか? ~東日本大震災から10年後の物語~

細野不ニ彦,平塚真一郎,井出明,河北新報社(特別協力)

小学館

2021年2月17日 発売

「こういう状況になりましたが…」震災で娘を亡くした教師の私が卒業式でふりしぼったある言葉

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー