この日の為に、山の上ホテルから持ち帰った髭剃りを使った。(舞い上がってつい、名だたる作家が定宿としていたあの山の上ホテルに泊まっちゃいました。恥ずかしい……)

 鼻毛を切って顔を洗って、最近いつも同じ服を着てるなと思いながら、やっぱりいつもと同じ服を着た。

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 さっきまであんなに穏やかな気分だったのに、家を出てからどれだけ歩いてもタクシーが捕まらず、すぐにイライラしてくる。よし、だんだんと調子が出てきた。やっと捕まえたタクシーに乗れば、けたたましくサイレンを鳴らした消防車に追い抜かれる。どこかで起きた火事と、それによって起きた渋滞に、なんだか心が落ち着かない。

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迷った上で受けると決めた選考会当日の密着取材

 15時15分。(行こ行こ!)

 ライブハウス、「Daisy Bar」に着いた。2階の事務所に入ると、バンドメンバーがもうすでに集まっていた。ライブとは違った妙な緊張感に、尻の穴がむずむずする。下に降りると、いくつかのテレビカメラが出迎えてくれた。散々迷った上で、選考会当日の密着取材を受けると決めた。ただはしゃいでいる。そう見られても仕方がないけれど、注目を集めたのであれば、可能な限り応えるべきだと思った。たとえ恥ずかしくて情けない結果が出ても、その役割を引き受けたいと思い決断した。

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 新潮社から「新潮」の担当編集杉山さん、単行本担当の前田さん、文藝春秋からは篠原さん、お馴染みの方々がしっかりと距離を取って出迎えてくれる。

 ライブハウスのフロア、四隅に置かれたテーブルにバンドメンバーが座った。ずいぶん距離をとって、明らかに不自然な配置だ。でも、1万人以上の規模でライブをする時、いつもメンバー同士、ちょうどこんな間隔でステージに立っている。

 そう思えば、この距離もなんだか心強い。