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悔しさも悲しみも、なかなか追いついてこない
何か話さなければと思うけれど、何を話せば良いかわからない。そんな時、ライブハウスのドアが開いて「新潮」の編集長矢野さんが入ってきた。
それ以降、沈黙が気にならなくなり、やっと気持ちが落ち着いた。
そこから、電話を待った。メンバーは黙って前だけを見つめている。後ろから、時々思い出したように囁き声が聞こえる。
「直木……決まった? えっ……決まった?」
特番「激録・警察密着24時!!」で犯人を捕まえる瞬間の、あの緊張感が走る。何かが終わる瞬間の激しいうねりを感じた。程なくして、机の上の電話が鳴る。来た。出たら終わる。とても名残惜しい。芥川賞は、電話に始まり、電話に終わる。出たくない。息を止めて、電話を掴む。通話ボタンを押して、耳に押し当てる。結果を聞いた。それをずっと前から知っていたような、とても懐かしい気持ちになった。
落選。とにかく何か言わなければいけない。顔を上げてメンバーの方を見た。
震えているのは自分の声なのに、まるで他人事だった。悔しさも悲しみも、なかなか追いついてこない。そこに紛れもない結果だけがあって、ただそれを感じていた。
次に後ろを向いて、新潮社の皆さんにお礼を伝えた。何を話せば良いかわからなかったから、それ以上、何も言わなかった。今まで散々言葉を使ってやりとりをしてきたのに、言わない事で成立してしまうのが悔しかった。ここまで連れて来て頂いて、本当に、ただただ感謝しかない。