1、あまりにも解像度の高い「BLジャンルあるあるネタ」
自分が「BL漫画世界の住人」だと気づいた主人公は、まず“敵”となる「己に降りかかってくるであろうBL漫画の王道パターン」を知るために大量のBL漫画を読み漁る。そこから傾向と対策を練っていくのだが、ここで取り上げられる「BL作品あるある」の詳細さとバリエーションの豊富さが本作最大の魅力の一つである。作者自身が大量のBL漫画を読み込んでいることを感じさせる描写に、BL作品を愛好する者であれば、思い当たる節とともに共感でくすっと笑ってしまう。
また、
●「ヤンキーや服越しにうっすら入れ墨が透けている人が多い町なのになぜか治安がいい」
(=多くのBL漫画に登場するヤンキーや裏稼業の男たちは、義に厚かったり、雨の日に路上の捨て猫に傘を差しかけるタイプの『根はいい奴』が多く、思い人である真面目なクラス委員や堅気の人間を守ろうとして自ら危険に飛び込んでいくような展開をよく見かける)
●「なぜか中性的な名前の男が多く、女の名前っぽいあだ名が横行する」
(=名前から女の子だと勘違いしてデートの約束をしてしまう展開や、意中の相手に恋人がいると思っていたら男友達だったというパターンなどによく用いられる設定)
●「風邪の時期に恋愛対象に対して発揮される異様な洞察力」
(=作中でも突っ込まれているが、あまりにも微かな体調の変化なのに、驚異的なほど細かく全てを読み取ってくるんだよな)
●「町中で見かける美少女はだいたい男」
(=本作では顕著だが、BL漫画では脇役女性キャラの顔はなんとなくぼんやりしていることが多いので、漫画内で出会う美少女ときたら、それは大抵男なのだ)
などのように、BL漫画のお約束(ベタ)展開をちょっとした皮肉交じりに紹介していくが、主人公自身は偏見無くあくまでニュートラルな態度を崩さない。
そのため読み手は、(興味からではなく必要に迫られて)そんなに詳しくなるまでBL漫画を読み込んだ主人公の涙ぐましい努力と健気さに、思わずがんばれとエールを送りたくなってしまうのである。