2、「絶対にBLになる世界」の圧力と「絶対にBLになりたくない」主人公の危機回避能力のバランス
世界の法則に抗うための努力を惜しまない一方で、妙にクレバーな省エネ系主人公というのも本作の重要な魅力のひとつである。
飲み会に誘われたとき、BL漫画のモブに徹し、メインの登場人物から距離を置くにはどのような振る舞いをすべきなのか? 無人だと思って入った教室のロッカー内に人がいることに気づいた時、モブに徹するための対処法は? うっかり幽霊に取りつかれてBL的展開になりそうになった際にモブとして取るべき行動は? BL漫画内でクリスマスをモブとして何事もなく乗り越えるためにどうすべきか?……など、現実世界ではありえないシチュエーションのライフハックながら、主人公の立てる傾向と対策があまりに論理的かつ具体的なため、読んでいる側も「確かにそうだわな」と思わされるリアリティが発生するのが面白い。
仮に上記の状況に追い込まれたとき、自分ならどういう行動を取るか少し考えてみて欲しい。例えば一つ目の問い「飲み会に誘われたときの対処法」だが、BL漫画のモブとしては「飲み会を断る」は不正解。なぜならモブとはあくまでメインの登場人物の背景に徹するものなので、「不愛想」「一匹狼」などの目立つ特性を付与されてはならないからだ。
正解は「飲み会に参加しつつ、この世界でメインに据えられそうな人物を避ける」。どのような人物を避けるべきか、また、飲み会帰り際の振る舞いについての注意点など、作品内で主人公が非常に事細かにモブとしての振る舞いをレクチャーしてくれる。
あるあるネタを逆手に取った新しい視点の展開が見事で、BL作品好きなら既視感で楽しむことができ、たとえBLを知らない読者でも、コミカルかつ分かりやすい描写のなかで主人公の努力と苦労に共感すること請け合いだ。