「百合コミック」「百合小説」に比べて、今まであまり触れられてこなかったようにも見える「百合映画」。『「百合映画」完全ガイド』の編著者であるふぢのやまいさんが、「女ふたり」の姿が描かれる「百合映画」と出会ったそのときから「呪い」にかけられたかのように、映画を見ていても不思議な症状に悩まされ、自身が主宰した同人誌『百合映画ガイドブック』から、新書を著すに至るまでを明かします。
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星海社より発売された『「百合映画」完全ガイド』がごく一部で反響を呼んだりしているらしく、その流れで編著者であるわたしがこうやって寄稿する機会を得たのですが、「同人誌に続いて新書を作るに至った経緯」を知りたいとのことで、今回補足的に説明しようと思います。
「ふたりの女」の様々な「運動」から目が離せなくなる「呪い」
ある映画を観た後に、全く別の映画を観ているとごくまれに同じセリフ、アイテム、シチュエーションが出てきたりすることがあります。そういうことは多少なりとも映画好きなら心当たりのあることだと思います。あるとき、映画を無造作に見ていたわたしの身に不思議な現象が起こりました。
たとえば、駅前のスーパーでカラオケ音源のMr.Childrenの『HANABI』を耳にする。次に予約していた本を買おうと、スーパーの隣の本屋に入ると有線放送から桜井和寿の声が聞こえてくる。「もう一回もう一回」。『HANABI』が発売されたのなんて、もう10年以上前なのに……と不思議に思う。そして家に帰りテレビをつけると歌番組に久しぶりの出演らしいMr.Childrenが出てきて歌い始める。「どれくらいの値打ちがあるだろう 僕が今生きているこの世界に」……。
そんな体験をするとその日はもう『HANABI』以外聴いちゃいけない気がして、YouTubeで『HANABI』を検索する。でも案の定、カバー動画以外はカスみたいな音質の違法アップロードしか見つからない。わたしはますますもう一回『HANABI』が聞きたくなる。気になってどうしようもなくなる。CDを手に入れなきゃいけない気がするけれど、近所の新品CDショップはとうの昔に潰れている。近所のブックオフへ向かう準備をする。行かなければなんらかの「呪い」(もしくは因果)に殺されてしまう予感がする。
上記の話は一部誇張していますが、たとえて説明するなら、これが『「百合映画」完全ガイド』の前身となる同人誌『百合映画ガイドブック』を作ろうと思い立った経緯です。映画に現れる「ふたりの女」の様々な「運動」から目が離せなくなり、わたしはそれらをまとめなければならないと、「呪い」にかけられたように思ったのです。