かつてはタツノコプロダクションで、ヤッターマン、ガッチャマン、みなしごハッチなどのキャラクターをデザイン。その後、言わずと知れた大ヒットゲーム「ファイナルファンタジー」のイメージイラストも手がけたのが、アーティスト・天野喜孝さんだ。幻想的なその絵柄を目にしたことのない人など、まずいないだろう。
そんな天野さんがコロナ禍に、1年がかりで取り組んだ作品が完成した。《法華経画》である。今年2021年は、日蓮宗の宗祖・日蓮聖人の降誕800年にあたる。日蓮宗では記念事業の一環として、天野さんに法華経の教えを視覚で伝える作品制作を依頼。それがこのほど完成を見たのだ。
「天野流」が感じられる巨大な宗教画
記念事業担当の僧侶が「ファイナルファンタジー」世代だったこともあり、「法華経の世界観は天野喜孝さんのそれと親和性が高い!」と考え、プロジェクトが動き出したのだとか。
お披露目と相成った《法華経画》は、高さ189cmに及ぶ大きな作品。金箔が張られた画面いっぱいにお釈迦様から四天王まで、ありがたき存在が配されて荘厳かつ華やかだ。筆致はいつもの「天野流」が色濃く感じられるゆえ、ファンならあのキャラクターこのキャラクターの面影を、画面のそこかしこから見出すこともできるはず。
巨大な宗教画という、これまでにない作品に挑戦した天野さんに、制作の裏側を聞いてみた。
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――天野さんはこれまでも様々な作品を手掛けられていますが、今回はその中でもかなり特異なオファーだったのではないでしょうか。最初にお話が来たときはどう思われましたか。
天野 本当に本物の日蓮宗さんかな、と(笑)。もちろん、すぐに本物とわかったんですが、そうなると「これはちょっといい加減なことはできないぞ」と気を引き締めました。根拠のある絵にしなければ、と思ったんです。長く受け継がれ、残っていくものになるわけですから。
一方で、これは勉強になる良い機会だとも思いました。やるとなったら仏教のことを、きっちり調べるしかありませんから。僕は日本のモチーフを描くことも多々ありますから、日本文化の基底にある仏教を押さえておくことは、今後の役にも立つんじゃないかと。