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「不要不急」への欲望はなくならない

天野 そのように観てくれる人がいたとしたら、光栄です。私もコロナ禍では引きこもっていて、そのおかげで仕事が捗っている面はあります。ただ、やはり籠もってばかりではよくないですね。たしかにアウトプットは進むけれど、インプットがなくなってくるでしょう? いくらインターネットを介してどんな情報にもアクセスできるといっても、リアルな体験とはまるで別物なので。ものをつくるうえで必要な刺激は、体感が伴うものじゃないといけません。

 そもそも絵は、今回の《法華経画》も含めて、「不要不急」なものと言われればそれまでかもしれないです。これでお腹が膨れるわけではないですから。ただ、たとえばケーキだって、おいしいから食べるんですよね。栄養を摂るために差し迫ってケーキを食べる人はあまりいない。おいしいものを食べたいという欲望があって、それを満たすためにケーキはあるんです。絵も同じような存在でしょう。生きているかぎりどうしてもついて回る欲望、それを満たすものが人には必要なんです。こんなご時世ならばなおさら、です。

©平松市聖/文藝春秋

――時代が変わっていっても、天野さんは変わらずに絵を描き続けていらっしゃいますね。筆を止めないのはなぜなのでしょうか。ご自身にとって切実なものがそこにあるからでしょうか?

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天野 まあ、他にすることがないですから(笑)。絵を描くのが自分にとっていちばん楽なことだし、気持ちがいいし。誰からも依頼されていなくても、絵は描いてるんですよ。だからコロナ禍でも仕事場に行って、描いて、帰ってくるというルーティンはまったく変わっていません。これまでと違うのは、外食に行かないくらいです(笑)。

 描きたいものはたくさんあるから、飽きることもないんです。かわいいもの、カッコいいもの、あと怖い絵も、いろんなものを描きたい。いまは「Candy Girls」というかわいらしいものを描いてますけど、そればかりやっているとそのうちに違うテイストも描きたくなってきて。

天野さんの次なる作品は……

――大作を仕上げたいま、次なる作品の構想はありますか?

天野 今回は仏教の世界観を存分に表現させていただきましたが、この絵で描いたのは、広い仏教世界のほんの一断面に過ぎません。また違う切り口でも他の絵を描けるんじゃないかと思っています。

©平松市聖/文藝春秋

――その絵がいつか見られるわけですね。

天野 いや、実は仏教をモチーフに神話的世界を描く作品には、すでに取り組んでいます。

――それは楽しみです!

天野 なにしろ引きこもり生活のうちは筆が進みますから。いまのうちにできるだけ描いておかないと、と思っています(笑)。

©平松市聖/文藝春秋