ADHDを肯定してくれたから病院に行くことができた
はたして彼女は、「合うところ」へ動いた。事務の仕事を辞め、営業に職を変えたのだ。「自分に営業が務まるのだろうか」と心配していたけれど、中沢さんは「やってみて、合わなかったらいいじゃん、また変えれば」とさくっと返したという。
そもそも中沢さんは、受診を勧めたわけではない。むしろ「生活に支障がないなら気にしなくていいんじゃない、あまり深刻に考えすぎずにね」くらいのテンションだった。
けれども、まず「ADHDもひとつの才能」と肯定してくれたからこそ、彼女は病院に行ってみようと思ったのだろう。そのひと言があったからこそ、「ADHD」と診断されても、「ショックを受けずに受け入れられそうだな」と思い、背中を押されたのではないだろうか。
中沢さんは、本音しか言わない。
きっと、薬剤師になる前からずっとそうなのだろう。
「言わないほうがいいときは、黙ってますから(笑)」
だから、彼の言葉は素直に耳に入ってくるのだろう。その場しのぎの慰めを口にすることもないし、社会的に正しそうな答えを取り繕ったりすることもない、だからこそ、素直に「そうか」と思えるのだ。
AV出演を相談する性風俗店の女性
基本的に中沢さんは「聴き役」だ。アドバイスを求められれば、適切なひと言を語るが、そうでなければ、自分からなにかを忠告したり、ましてやお説教のようなことを言ったりはしない。
あくまで基本的には……である。
2020年4月、新型コロナウイルスの流行にともなって東京都が緊急事態宣言を出したとき、歌舞伎町の性風俗店ではたらいていた若い女性がニュクス薬局にやって来た。
「お店も自粛をはじめて、仕事がなくなっちゃったんだよね」
全国的に「自粛」が叫ばれ、夜の街から人通りがなくなったあのとき。ましてや、「濃厚接触」をともなう性風俗店の仕事がめっきり減るのは、想像に難くない。
そこで彼女は、新しい道に進もうかと、相談を持ち掛けた。
「AVに行こうかな」
基本的に中沢さんは、自分からアドバイスや意見を言うことはしない。しかしそのときは、はっきりと自分の思いを伝えたという。
「いまは仕事がなくて大変なのはわかる。
けど、AVとして形に残ってしまうのはあまりよろしくないと思うよ」
職業に貴賤はない。それでも、偏見はある。世の中から偏見をなくしていくことはもちろん我々みんなが努めなければならないことだけれど、中沢さんが言っているのは「現実」の話で、起こる可能性の高い「近い将来」の話だ。