眠らない街、新宿歌舞伎町で夜間のみ営業している「ニュクス薬局」が混み始めるのは深夜2時頃からだ。深夜0時ごろ閉店し、片付けやミーティングを終えたホストやキャバクラ嬢たちを中心に、さまざまな人が深夜に薬局を訪れる。

 そんな「ニュクス薬局」を一人で切り盛りするのは薬剤師の中沢宏昭氏。ここでは、同氏が体験したエピソードを、歴史・文学関連を中心とした執筆活動を行う福田智弘氏がまとめた一冊『深夜薬局 歌舞伎町26時、いつもの薬剤師がここにいます』(小学館集英社プロダクション)より引用。中沢氏のもとを訪ねる人々とのやり取りを紹介する。(全2回の1回目、後編へ続く)

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ひょっとすると、自分はADHDなのではないか

 聞かれなければアドバイスはしないけれど、聞かれれば本心を伝える。これが中沢さんのルールでもある。

 3年ほどニュクス薬局に通っている女性がいる。

 水商売の女性ではない。派遣で、ある会社の事務をしていたけれど「仕事がうまくいかない」と悩みつづけていた。ひょっとすると、自分は「ADHD(注意欠陥多動性障害)」なのではないか、だから仕事もうまくいかないのではないか、と真剣に悩んでいた。

 

「ADHD」とは、発達障害の一種で、「集中できない、忘れっぽい、落ち着きがない」などの症状が出る。かつては幼児期に見られる障害と思われていたが、近年、「ADHD」と診断される成人も増えている。

 彼女の場合も、トイレに化粧品や携帯を忘れるといったうっかりミスが多く、仕事でも失敗が重なっていた。

「ほんとダメ人間だ、どうすればいいんだろう?」

 中沢さんのところに来ては、そう漏らしていた。

ADHDもひとつの才能

 本当にADHDだとしたら、たしかに事務の仕事は大変かもしれない。しかも派遣であれば、いつ契約を解除されてもおかしくないといった恐怖もあるだろう。対策として考えられる選択肢は、「きちんと医者に行って診断して薬を処方してもらうか」「あまり集中力を必要としない仕事に変えるか」といったところだろうか? 中沢さんはどのように答えたのだろうか。

「仮にADHDだとしても、ひとつの才能だと思っていいんじゃない。成功者にも多いよ。事務仕事はたしかに合わないかもしれないけど」

 と、言ったという。

『深夜薬局 歌舞伎町26時、いつもの薬剤師がここにいます』(小学館集英社プロダクション)

 彼女はその後、大学病院の専門医にかかり、「ADHDだと診断された」と報告してきた。

 さらに彼女は、

「ADHDの人が集まる会に行ってみたんだ。

 そしたら、みんな明るく前向きだったんだ!」

 と当時の驚きを明るめの口調で語ったという。そのとき、中沢さんは

「うん、そんなもんだよ。仕事も合わないと思ったら、辞めて合うところを探してもいいんだしね、生活さえできればさ」

 と語った。