そのようにして人物像を探り、ボールを投げていくことが、相手にとってもこころを開くステップになるのだという。
「自分のことを当てられた」
「わかってもらえた」
と思うと、急に距離感が近くなったり、信頼感が増したりするのは、占いと同じだ。
「人間って、みんな『自分のことをわかってもらえてない』って感じているものなんですよね」
だからこそ、「ここに来ればホントの自分をわかってもらえる」と思えたひとは、こころを開き、自分のことを話してくれるようになるのだ。
「いつもそこにいる」という安心感
ニュクス薬局がわたしたちに与えてくれる安心感のひとつとして、まず、シンプルに「いつもそこにいる」という側面がある。
中沢さんは、ニュクス薬局が夜8時にオープンして朝9時にクローズするまでの13時間、たったひとりでカウンターに立ちつづけている。従業員も、アルバイトもいない。
「いつ行っても、中沢さんがいる」のだ。そうなると、
「あ、知らないひとだ。新しいアルバイトさんかな?」
「中沢さん、今日はいないのか……じゃあいいや、帰ろう」
と引き返すことがない。「行こっかな」と思ったら、いつ訪れても、白衣を着た中沢さんが、同じ顔で同じテンションで立っている。
つらいことがあった日も、楽しいことがあった日も。お金がない日も、給料日も。「店長さん」でも「薬剤師さん」でもない、「中沢さん」がそこにいるのだ。
孤独な若者の支え
全員の名前を完璧に覚えている、なんてことはない。けれども、一度来たひとであれば、顔を見たら前回どんな話をしたかはだいたい思い出せるという。
「とくに、処方箋を持ってきたひとで、なんとなく心配だなって思ったときとか、ボールを投げて『こういう子かな?』って考えたときとかは、コンピューターで管理している薬歴に、メモを残したりもしているので」
「あそこに行けば、『患者』でも『お客さん』でもない『わたし』をわかってくれているあのひとがいる」
この感覚は、ひとを安心させる。ほっと安心してまた、いつでも戻ってこられる。
とくにニュクス薬局のある歌舞伎町は、上京者の多い街。
「ああ、この間の……」という表情に、どれだけの孤独な若者が支えられているかわからない。