昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

働きながら治療する。がん患者が選ぶ新しい流れ――岩瀬大輔社長インタビュー#2

『がん保険のカラクリ』(岩瀬大輔 著)著者が奔走した「がんアライ部」とは

一番嬉しかった差し入れはお花でなく「佃煮」

 2つ目は治療面以外のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)に関するサポートです。

 ディスカッションの場でお聞きした、がんを経験したファッショナブルな若い女性の一言が、私の記憶に強く残っています。

「入院中、かわいいパジャマがないことがとても嫌でした。どれも機能優先でかわいくない。そんなのを着せられているのに、お見舞いで皆、見に来るし。私、オシャレな病院服を作る会社を起業します」

 また、他のがん経験者はこう言いました。

「入院中の差し入れで一番嬉しかったのは、お花より佃煮でした。お花だと匂いがダメな患者が同部屋にいるかもしれないし、手入れするのも大変です。それよりも味気ない病院食に彩りを与えてくれる佃煮のほうがいい」

 こうした言葉をきくと、治療だけでなく、それ以外の生活にかかわる事項がいかに重要なのかを痛感しました。それは退院後の生活でも同様です。

「部屋がちらかっていて気がめいるし、子どもにも良くないと思うけど、どうしても体が動かないのです。家事代行サービスを頼もうにも、どこがいいのか分からない。費用は自分で払うから、ライフネット生命さんにいいところを選んでほしい」

「乳がん手術の影響で手が挙げられないので、料理が出来ません。包丁を使えないのです」

 家事だけではありません。退院後の通院にも不安があると聞きました。

「乳がんの手術で脇の下を切ったので、手を挙げて吊り革を持つと手術跡が開きそうで怖いのです。だから電車は避けたいのですが、通勤や通院にタクシーを使うと経済的な負担が大きくて困っています…」

「抗がん剤治療のため1人で病院へ行かなければいけないけど、行き帰りに電車の中で気分が悪くなる」

 がん経験者の皆さんが、「私たちの経験をぜひ役にたててほしい」と、口々に言ってくださって、こうした話を聞かせてくださいました。そればかりか、「また、すごく楽しかった。また呼んでほしい」とも。

 こうした話をする場が少なかったのでしょう。何より自分の経験が他のがん患者のためになればという思いを強く持っておられる。こうした言葉に私は感動しました。

 がんと共生する時代には、家事や通院といった生活面をはじめ、QOLの維持がますます重要になります。とすれば、これからのがん保険は「給付金を渡して終わり」ではなく、「その先までサポートする」ことが望ましい。そこで、今後はがん患者の方々に向けた家事代行サービスや、通院へ付き添うタクシーサービスなど、異業種の民間企業とタッグを組み、がん患者さんの一助になれるようなサービス提供に努めていきたいと思っています。

QOLの維持は家族を守ることにつながる。©iStock.com

 そして最後に調査から浮かび上がったニーズは、「がん患者が働きやすい環境づくり」です。私たちが、がん経験者の皆さんに「勤務先のサポート制度に満足していますか」と質問したところ、「そもそも制度がない」という回答が43%もありました。また、「制度があっても使いにくい雰囲気があった」という回答も30%あったのです。 こうした企業制度と風土を変えていきたい。厚生労働省や東京都などの行政サイドは、治療と仕事の両立のためにガイドラインを設けたり、奨励金を創設したりと、すでに動き始めています。

z