1ページ目から読む
3/3ページ目

赤字を心配せずに国は借金を増やせ

 アメリカはトランプ大統領の大幅減税で財政赤字が拡大。国債を大量に発行していました。アメリカの伝統的な政治家であれば、「国債発行を減らせ」と言うところですが、彼女はMMTの考え方を援用し、政府支出を拡大すれば景気対策にもなると主張しているのです。

 MMTの提唱者であるケルトン教授は、2020年の大統領選挙で民主党の大統領候補を目指していたバーニー・サンダース上院議員のアドバイザーでもありました。このため、この理論は一段と脚光を浴びました。

 こうした理論が一定の支持を受ける背景には、先進国の経済成長率が軒並み低下し、中央銀行が金利を引き下げてもデフレから脱却できないという実情があります。「低成長・低金利・低インフレ」の長期化です。

ADVERTISEMENT

 インフレを心配して財政赤字を拡大しないようにしているから経済が成長しない。いざとなれば中央銀行ではなく政府が紙幣を発行すればいいのだから、赤字を心配せずに国は借金を増やせというわけです。

©iStock.com

日本では「薔薇マーク」運動に

 実は、この理論を元にした運動が日本でも始まっています。「薔薇マークキャンペーン」です。経済学者の松尾匡氏や稲葉振一郎氏、翻訳家の池田香代子氏などが呼びかけ人となって、参議院選挙で「反緊縮の経済政策」を採用する立候補者に「薔薇マーク」を認定し、応援したのです。

 なぜここで「薔薇マーク」が登場するのか。必要なところにお金を「ばらまく」にかけているのと、薔薇の英語であるROSEは「Rebuild Our Society and Economy」(我らの社会と経済を立て直せ)の頭文字になる、というわけです。

 従来、財政赤字を気にせず経済を立て直せという主張は「リフレ派」と呼ばれるアベノミクス応援団に多かったのですが、こちらは反安倍政権のリベラルな人たちが提唱しています。消費税増税に左右両方から反対の声。それにもかかわらず、最終的に安倍首相は増税を決断したのでした。

今を生き抜くための 池上式ファクト46

池上 彰

文藝春秋

2021年3月24日 発売