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「お前、何ガンつけてんだよ」

 志村さんに付いてすぐ、『志村けんのバカ殿様』の収録がありました。

 まず驚いたのは、セットの大きさです。スタジオ2つ分もあり、カメラが10台ほども並んでいたのです。大道具のアルバイトを経験していた僕ですが、それほど巨大なセットは見たことがありませんでした。ゲストで来る俳優さんの中には、「大河ドラマみたいなセットだ!」と驚く人もいると、あとになって聞きました。

 一つのコントを撮るのに、ものすごく時間をかけていることにも驚きました。カメラのアングルを変えたり、セットを変えたり、あるいは小物にもあれこれこだわって、本当に入念にコントを作り込んでいくのです。

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 初めて行った『バカ殿様』の収録現場では、今も強烈に記憶に残っている出来事がありました。共演者のみなさん、スタッフのみなさんにあいさつをしたときのことです。

志村けんさん ©️文藝春秋

「このたび志村さんの付き人になりましたハゼキシンイチです、よろしくお願いします」

 そう言って頭を下げると、田代まさしさんがいきなり近寄ってきました。そしてこう言ったのです。

「お前、何ガンつけてんだよ」

 いったい何のことなのか、最初はまったくわかりませんでした。「えっ?」と絶句する僕に、田代さんはなおも言いました。

「お前、さっきから俺をにらんでたろ?」

 もちろんそんなことはしていません。「田代さんだ!」と憧れの眼差しで、ちらっと見ただけでしたから、必死に否定しました。

「なあ、こいつ、俺をにらんでいたよな?」

「いえ、そんなことはしていないです。にらんでないです」

 それでも田代さんは、

「にらんでたろ。なあ、こいつ、俺をにらんでいたよな?」

 とまわりの人たちに聞いたりしたので、僕はもう泣きそうになりながら、さらに必死に「本当にそんなことしてないです」と訴えました。

げそ太郎さん(著者提供)

 すると田代さんは怖い顔をしたまま、しばらく黙り込みました。そしてニコッと笑い、

「なーんてね。ドッキリでした~」

 と言ったのです。その瞬間、全員が大笑い。しかし僕はまったく笑えず、ヒザが崩れそうになるくらいに力が抜けました。「よかったあ……」とホッとしたのと同時に、何だかすごい世界に飛び込んでしまったのだなと身震いしたのでした。