ウマが合うのは「におい分子」で判断
内田 目には見えないものですよね。
中野 そうです。株価だって目に見えないですよね。だけど、投資家のうちの一定数が「この銘柄はいい」と思えば上がる。そういう様相があると思います。
内田 むしろ言葉を使わないで伝わることのほうが人間間では大きいっていいますものね。
中野 大きいと思います。
内田 私も今日、たくさん感じています。
中野 えっ、どうしよう、私のネガティブなオーラみたいなものを……(笑)。
内田 違う違う(笑)。今のお話、すごく興味深いです。
中野 非言語的メッセージというのは、もちろん間に見えるその人の態度というのもあるんだけれども、「におい分子」が有力な候補の一つなんですよ。なんだかウマが合う・合わないというのは、「におい」で感じている可能性を示唆する研究もあります。
内田 一見無臭に感じても。
中野 そうそう。声のトーンとか。
内田 声の振動も含めて?
中野 そうです、そうです。
内田 面白いですね。知れば知るほど面白いですね。
ホメイニ師の「音楽は麻薬」批判は当たっていた
中野 不思議ですよね。脳科学でいうと、音楽を私たちは何気なく聴いてしまうけれども、音楽を聴いているときに脳内ではオピオイドが出ている。
内田 オピオイドはどういう作用があるんですか?
中野 オピオイドというのはいわゆる麻薬です。
内田 ああ。なるほど。
中野 快感物質が出るということがわかったんです。イランのホメイニ師が「音楽は麻薬」と言って音楽を否定しましたけど、ある意味それは本当だったんです。
内田 ホメイニ師はそんなことを言っていたんですか。
中野 言っていたんです。イスラム文化圏において楽師というのは非常に位が低いんです。なぜ位が低いとされているかというと、人々に快感を与え過ぎるからという見立てが成り立つんですね。やや極端ですが、ポルノと同じような扱いという感じなのかもしれません。どうも、わかりやすい快感を与えるものに従事する人は位が低いとされる傾向があるようなんですよ。では、位が高いのはどんな人かというと、詩人です。
内田 それはなぜですか?
中野 言葉は高尚なもので、その力を使ってみんなの心を変えることができる、という考え方のようです。本当はイスラム学の人に確認すべきですが。
内田 詩という、そのミニマルさが崇高だということなんですね。
中野 そういうことみたいですね。それから、詩人たちというのはすごく美声なんですよ。声の力がすごい。
内田 じゃあ、音を楽しむということでもあるわけなんですね。