もらった着物はすべて雑巾にする人がいた
内田 母が二次使用OKって言ったことが、ここまで広がって。それも含めて面白がればいいということだと思うんですけど。
中野 なるほど。やっぱり深いな。ご本には、物を大事にされていたということもたくさん紹介されていますが、物をもらうのが嫌いな人だということも紹介されていますよね。舞台に出演された際にも、お花を贈ってくれるなというぐらい、物をもらうのがお嫌いな人だったと。そのくだりを読んで、私はある人を思い出しました。江戸時代初期の人なんですけど、本阿弥光悦(ほんあみ・こうえつ)という人です。
内田 知りません。
中野 万能の美術家といわれた人で、陶芸もやるし、書もやるし、刀の目利きでもある。この人のお母さんが妙秀(みょうしゅう)という名前で、刀の目利きのお家の本家のお嬢さんで、お婿さんをもらって家を継いだんです。この妙秀が物をもらうのが嫌いなんですよ。どんなにいい着物をもらっても、みんな裂いて雑巾にしちゃう。
内田 え~っ。でも、受け取ることは受け取るんですね。
中野 どうしても受け取らざるを得ないものは受け取るけれど、雑巾にしてしまう。着飾るものは毒だからって。
内田 母に似ている~(笑)。
中野 そうでしょ。希林さんは本阿弥妙秀ではないかと思った。也哉子さんはその一粒種なので、本阿弥光悦みたいな人なんじゃないかと思ったんです。
洋服を買ってもらったことがない
内田 母は戦時中に生まれたんですね。物がない時代から、急激に物が溢れかえる時代に替わるのを経験した。私が生まれたとき、母は30代。母はとにかく断捨離で、食べ物は一汁一菜で玄米菜食、物については、例えばハサミにしても、普通は家のなかのいろんなところに置いておくんでしょうけれど、家じゅうで一個しかない。それから、道具は一つの用途だけではなく、いろんなふうに使いこなす。
中野 すごい!
内田 洋服も買ってもらったことがなかったし。中学に上がるまで一度も買ってもらった記憶がないですね。
中野 それはすごい!
内田 母のお友だちの女優さんは、みなさんシーズンごとにお洋服を買い替えるから、そういう方々のお下がりをもらって、Tシャツでさえも肩上げして着せられていたんですよ。おもちゃもないです。
中野 面白い! みなさん、私たちは今、すごいことを聴いているんですよ!
内田 「物を大事に」という何か温かい感触のものというよりは、もっとストイックな考えによることなんです。物を介してでしか付き合えなくなってしまう関係性ってあるじゃないですか。いただいたらまた送り返して、というのは人間のコミュニケーションの一つではあるのだけれど、母にしてみたら、けっこうロマンチストなので「そんなことしなくて、もっと直につながろうよ」という感覚があったと思うんです。
中野 面白い。
内田 それを恥ずかしいから、「私はとにかく一切合切要りません」と言っていた。
中野 なるほど。