大事なのは血? 生まれてから共有した時間?

中野 そうですね。ただ、音を楽しむということでは同じでも、音楽の楽しみと詩の音の楽しみを峻別していて、私たちの身近な例でいうと、漫画と格調高い本の違いですかね。といっては、漫画にかなり失礼かもしれませんが……。

内田 そうなんだ。「家族」というものに関して中野さんにお聞きしたいことがまだまだたくさんあるんですよ。私は子どもを三人、授かっているんです。それでよく考えるのですが、「血縁」ということに私たちの社会はこだわるところがあるじゃないですか。でも、実はそうではないんじゃないかと私は信じたいところがあるんです。それは、自分の親に対するいろんな反抗心も含めて、そういうことから解放されたいという思いもあるし。

 でも、家族について「親子」に焦点を絞ったとき、「血縁」というものと、生まれたときからずっと共有してきた時間というものは、価値を比べるのも変だけども、人間の脳内ではどう整理されるのかなと。

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中野 うわ~。

内田 ごめんなさい。難し過ぎる?

中野 これだけで5時間も6時間もしゃべれるような内容なんですよ。たぶん、同じように悩まれた学者がいっぱい居たようで、いっぱい実験があるんです。

内田 では未解決ですか?

中野 ある程度、示唆的な結果は出ています。也哉子さんが欲しいのはこういう答えなんじゃないかなって、今、私の脳内で一生懸命探しているんですけど……。

内田 欲しい答えをくださる(笑)。

也哉子さん1歳 希林さん34歳(1977年)

科学が証明した「生みの母」より「育ての母」

中野 ラットのストレス耐性の実験というのがあります。ラットは透明な床を怖がるんですね。だから、透明な床の先にある餌を取りに行かない。でも、なかにはあまり怖がらない、透明な床によるストレスがあんまりかからないラットもいて、餌の魅力のほうが勝って、透明な床であろうがズンズン餌を取りに行っちゃう個体がいるんです。このラットのストレス耐性の違いはどこから来るのかということを調べた実験があるんです。

 このラットという動物は、子どもを舐めて育てるんですね。グルーミングをして育てる。ただ、よくグルーミングをするお母さんと、あまりしないお母さんがいる。すると、よくグルーミングされて育ったラットのほうが、透明な床の先にある餌をよく取りに行ったんです。ということは、よく子どもを舐めるお母さんがそもそもストレス耐性が高くて、それを子どもは受け継いだのか。それとも、グルーミングが大事なのか。

 これを調べるために、巣を取り換える実験をするんです。よく舐めるお母さんから生まれた子どもを、よく舐めないお母さんの巣に移す。逆に舐めないお母さんから生まれた子どもをよく舐めるお母さんの巣に移す。そうすると、育てのお母さんと産みのお母さんのどっちの影響が大きいかがわかりますよね。どっちの影響が大きいと思いますか?

内田 私は育ててもらったお母さんの影響が大きい、接した時間のほうが大事だというふうに思いたいんだけど。

中野 おっしゃるとおりです。この実験では、育てのお母さんのほうが影響が大きかったんです。よく舐められたほうがストレス耐性が高いんですよ。

内田 そうなんだ。