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綾瀬はるか、カズオ・イシグロに会いに行く #前編

人気女優がロンドンで語り明かした2時間。

source : 文藝春秋 2016年2月号

genre : エンタメ, テレビ・ラジオ, 読書, 芸能, 映画

note

綾瀬 小説をお書きになる時は、登場人物一人ひとりの気持ちになって書かれるんですか。

イシグロ それが唯一の書き方じゃないでしょうか。主な登場人物については、自分を投影して書いていきます。逆に言えば、いくら書いてもその人物の内面に共鳴できない場合には、そのキャラクターに対して私がそれほど興味がないということかもしれません。

綾瀬 やっぱりその人物になりたくてもなれない時がある?

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イシグロ ええ、そういう時もあります。ただ主な登場人物については、どこかしら自分の一部が彼や彼女に含まれていると感じます。その人物が若かろうが年寄りであろうが、男であろうが女であろうが、国籍が何であろうが、その中に必ず自分の一部がある。そうやって人物を作っていくのです。

 ところで、今回はるかさんとお会いするにあたっては、TBSの方にお願いして、『JIN―仁―』(「わたしを離さないで」と同じく脚本・森下佳子氏で綾瀬が出演した連続ドラマ)を取り寄せて拝見しました。はるかさんの演技、非常に素晴らしかったです。(大沢たかおが演じた主人公の)医師に対する「愛」を、言葉を使わずに顔の表現やボディーランゲージでとてもうまく伝えていた。江戸時代という設定で、現代のボディーランゲージが使えないという制約がある中で、言葉にならない感情を、とてもうまく伝えていらした。

綾瀬 Thank you very much!

昔の日本映画が好きだと語ったイシグロ氏 ©文藝春秋

イシグロ 私は昔の日本映画が大好きなのですが、先日、原節子さんがお亡くなりになって、非常に残念なんです。私がイギリスで育った時代は、原節子さんが出ていたような映画が非常に重要でした。私は戦後の、この時代の日本映画がとても好きなんです。はるかさんの世代の女優さんは、原節子さんや高峰秀子さんのような女優から影響を受けていると思いますか。

綾瀬 うーん……難しい質問です。同世代の他の女優さんがどう思っているかは分かりません。でも、私は原節子さん、高峰秀子さん、お二人ともすごく好きなんです。それぞれまったく個性が違う女優さんだと思いますが、共通しているのは、凜としていて、品がある。あの、映画女優としての独特のたたずまいにはやはり憧れます。

イシグロ 先ほどスタッフの方からお聞きしましたが、是枝裕和監督の映画『海街diary』(15年6月公開)でのはるかさんの演技は評論家から「平成の原節子」とも称されたそうですね。実際、是枝監督が「原節子さんを思わせる昭和の香りがしたから」と起用の理由を語っていたとか。

綾瀬 いやいやいや(照れ笑い)。

イシグロ 私は小津安二郎監督だけでなく、是枝監督のファンでもあるのですが、その話を聞いて納得がいきました。『海街diary』は、まだDVD化されていなくて、残念ながら未見ですが、近いうちに見られるのを楽しみにしています(対談後に発売された)。

綾瀬 お恥ずかしい、畏れ多い話です。原さんのファンの方からすれば「おいおい」って感じだと思います(笑)。でも実際、是枝さんも小津さんをリスペクトされているし、私が演じた四姉妹の長女は、昭和の良き母親のような雰囲気がある役柄でした。そのイメージから、そうおっしゃる方がいたんだと思います。

イシグロ 日本の古き良き伝統を体現した原節子さんと、それを受け継ぐはるかさん。とてもいい比較論じゃないかと思いますよ。

綾瀬 ありがとうございます。原さんのお名前を汚さないように、頑張らないと。

(#後編に続く)

綾瀬はるか、カズオ・イシグロに会いに行く #前編

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