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村上さんと話すのはジャズのことですよ

――小説家の話になりますが、好きな作家は誰ですか。

イシグロ 伝統的な作家、つまり偉大な作家では、今でもロシアの作家が好きです。チェーホフ、トルストイやドストエフスキーです。ある意味では私が20代の頃に気に入っていた作家と同じです。年を取るにつれて、ジェイン・オースティンのような、若いときあまり好きでなかった作家が好きになってきました。オースティンは学生のときに読まされたのですが、とても退屈な小説でした。3年前にオースティンのすべての6冊の小説を立て続けに読んだのですが、本当に卓越した作家であると認識しました。ですから、ときには再読する必要があります。現代作家の中では、好きな作家はたくさんいますが、村上春樹がもっとも興味ある作家の一人ですね。とても興味があります。もちろん彼は日本人ですが、世界中の人が彼のことを日本人と考えることができません。国を超えた作家です。現時点で、村上春樹は現代文学の中で非常に関心を引く何かを象徴しています。人は、日本文化に必ずしも関心がなくても、村上春樹に通じるものを感じるのです。

©getty

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――イシグロさんがこの前来日されたとき、村上春樹にお会いになったと聞いたのですが。

イシグロ 会いましたね。ここ(ロンドン)でも会いました。

――村上さんとはどういう話をされるのですか。

イシグロ ジャズのことですよ(笑)。そのようなものです。作家同士が会うと、文学というような、大それたテーマについて話すことはあまりありません。

――村上さんは、自分がイギリスやアメリカで生まれていたらよかった、と言ったことがありますか。

イシグロ ありません(笑)。そこまで親しくありません。東京で昼食を一緒にしたことがあります。それは2001年のことで最初に村上さんに会ったときです。それ以来、ロンドンで二、三回会っています。ロンドン・マラソンに出るために来たときだと思います。本の出版パーティーや晩餐会もあり、出版社の人はみんなとてもわくわくしていました。がっかりするかもしれませんが、そういうときの作家同土の会話はささいな話題です。大きなテーマについてはあまり話さず、サッカーや他のスポーツについて話したりします。作家たちはお互いに人間としてかかわりたいと思っています。確かに、村上さんはジャズにとても熱中されています。私もそうです。