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 仮に日本企業が画期的な車載電池の開発と量産化に成功しても、それが電池メーカーに大きな報酬をもたらすか、その電池を搭載した自動車メーカーの持続的成長に貢献するか。それはその時点における自動車産業もといモビリティービジネスまわりの産業アーキテクチャ次第なのである。ひょっとしたらそこにまたアップル社が君臨している可能性がある。彼らはアーキテクチャ転換ゲームの達人であるとともに、年間4兆円を超える潤沢なフリーキャッシュフロー(自由に使える余剰資金)を事業収益から毎年叩き出す力を持っているのだから。

デジタル敗戦を繰り返さないために

 現在の我が国の製造業は圧倒的に自動車産業のバリューチェーンが中核となっている。自動車及びその関連産業は、今でも国内で相対的に良質な中間層雇用を大量に生み出している極めて重要な産業群なのだ。そこにはトヨタ、ホンダに加え、サプライヤーサイドではデンソー、パナソニック、日立、ソニー、日本電産など、各分野で世界チャンピオン級の有力日本企業が存在する。この産業領域には私自身も当事者として関わっているが、我が国の有力企業あるいはベンチャー企業が、新たなアーキテクチャへの転換が起きても、引き続き覇者になってくれることを切に期待している。

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 本書の中にも出てくるが、西山氏と私はここ数年、このアーキテクチャの問題、取り分け日本の産業社会全体が、アーキテクチャ思考力、アーキテクチャ構築力を抜本的に強化しない限り、デジタル敗戦を今後も繰り返す、それも今後はより広範な産業領域で、という危機感を持ってきた。

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 どうも私たち現代日本人の多くは、目に見える形を持ったモノから発想することは得意だし、それを緻密に詳細に洗練し作りこむのは上手だが、システムや制度といった無形のものを論理的に認識し発想することは苦手なようである。特に部分よりも全体を、しかもサイバー空間のような3次元構造を鳥瞰的に認識し、そこで既存の前提をすべて取り去った「神の視点」で大それたそもそも論を構想するのはますます不得意に思える。