勝者は新たなアーキテクチャを創造するプレイヤー
今や社会課題はそれ自体が複合化、曖昧化しやすい。また個人の欲求も官能的なものになるほどあらかじめ明確に定義できない。そうなると付加価値創造に向けて目的因子自体が曖昧なところから思考を開始しなくてはならず、そこに出てきたのがいわゆるデザイン思考である。ただ、デザイン思考においても思考のゴールにおいて、アーキテクチャを意識しないで生み出したアウトプットは、一つの構成要素としてイノベーションの大事な役割を果たしているのにもかかわらず、ビジネスとしてはまったく報われない、事業としては持続性を持たないものになるリスクがある。
昨今話題のゼロエミッション、グリーンイノベーションなどもおそらくはその典型である。例えば自動車の電動化について、「それを実現する物質的なキーエレメントは車載電池だ」となる。そこで「電池開発に多額の投資をしよう、そして世界に先駆けて新しい電池セルを大量生産し、その最新電池を搭載した自動車を世界で売りまくって、フルEV世代の電池産業と自動車産業で世界の覇者になろう」というシナリオ展開、いかにも20世紀の工業化社会のアーキテクチャを前提にしたシナリオ展開になりがちだ。
しかし、である。似たようなシナリオは、液晶ディスプレイでもあったし、太陽電池セルでもあったし、液体リチウムイオン電池でもあった。しかし、いずれの場合もデジタル化で産業システム全体のアーキテクチャが変容する中で、これらの発明、インベンションが生み出したイノベーションの果実を圧倒的に手にしたのは、発明物たるエレメント部材の大量生産メーカーでなければ、伝統的なテレビメーカーでもない。例えば液晶ディスプレイの発達とリチウムイオン電池の発明を梃子(てこ)に破壊的イノベーションをけん引し、桁外れに大きな成長と収益に結実させた企業は、まぎれもなくアップル社である。新たなアーキテクチャを創造しその覇者となったプレーヤーが美味しいところをほとんど持って行ってしまったのだ。