DX、人工知能をはじめとした新技術によるビジネスモデルの変革が起こり、多くの企業はデジタル化に対応する必要に迫られている。しかし、ビジネスにおけるデジタル化をどうイメージして、何から手をつけて良いかわからないと頭を悩ませる人もきっと多いだろう。

 そんな人にとって一つの指針となる書籍が、経済産業省商務情報政策局で局長を務めたキャリアを持つ西山圭太氏による『DXの思考法 日本経済復活への最強戦略』(文藝春秋)だ。ここでは、同書より冨山和彦氏の解説を引用。デジタル化後の新しい世界において重要となる“思考法”を紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

アーキテクチャ思考の模索、Society5.0が真に問うもの

 筆者は未来に向けてデジタル化のもたらす新しい世界を展望していく。

 そこで重要になってくるのが「アーキテクチャ」という概念である。この言葉はやや抽象的で難しい概念だが、噛み砕いて言えば、ある目的を達成するために諸々の要素を構造的に組み合わせてシステムとして機能させる全体像のことである。ある意味、「生態系」に近い概念と言えるかもしれない。

 元々「アーキテクチャ」は建築物という意味だが、建築物はまさに人が住まう、あるいは仕事をする、さらには砦であれば戦争をするという目的のためにその場の地形、気候といった環境要因、建築材料や構造のようなハード的な要素、生活様式や仕事内容、戦闘手段などのソフト的な要素を構造的に組み合わせて作られ、かつ運用される。

 これはコンピュータにおける大規模なシステム開発の思考法に馴染むので、コンピュータ用語として幅広く使われるようになっていく。そしてデジタル革命の進行によって、より幅広い経済活動、産業活動がコンピュータネットワークのなかで動くようになると、経済社会活動全般に関わる課題解決において、決定的に重要な思考枠組みとなりつつある。さらにはビジネスモデルのデザイン、競争上の障壁構築も、アーキテクチャ思考なしには難しい状況になっている。サイバー空間の量的質的な拡大、それも階層化、モジュール化を進めながらの拡大は、ビジネスアーキテクチャデザインの自由度を増し、構成要素となる技術やツールはどんどん進化するので、視座を常にアーキテクチャ全体の次元においていないと、古いアーキテクチャに依存したビジネスはある時、一瞬にして消えてしまうからだ。

©iStock.com

 古い携帯電話端末ビジネスが瞬殺された話もアーキテクチャ転換の典型例である。それまで個々の通信事業者の規格に合わせて製品を作りこむ、いわばすり合わせ型のBtoBビジネスモデルで繁栄を謳歌していた日本の携帯端末メーカー群だったが、個々の通信事業者規格に拘束されない上位階層に位置するOSであるiOSで動くiPhoneの登場、さらにはグーグルがそれを追いかけてアンドロイドOSを提示したところでアーキテクチャ転換が起きる。携帯端末事業は、キャリアフリーで直接エンドユーザーにグローバルスケールで売り込んでいくビジネスへと変貌した。そして日本勢の多くはゲームのルールが根本的に変わったところであっという間に競争から振り落とされてしまったのである。