きょう3月29日はマンガ家の江口寿史の65歳の誕生日である。1977年のデビュー以来、『すすめ!!パイレーツ』『ストップ!!ひばりくん!』などのヒット作を生み、『江口寿史の爆発ディナーショー』で文藝春秋漫画賞(1992年)も受賞した。洗練されたイラストレーションでも知られ、90年代以降はマンガよりもむしろそちらでの活躍が目立つ。
江口といえば吉祥寺(東京都武蔵野市)に長らく仕事場を置き、情報誌などで吉祥寺の特集が組まれるたびに登場するなど“吉祥寺の顔”にもなっている。デビュー当初は実家のある千葉に住んでいたが、『すすめ!!パイレーツ』を『週刊少年ジャンプ』で連載中、《(原稿の遅い)作家が住み着く集英社の“執筆室”に住むようになって。1年半ぐらいたって、編集者に「いつまでも、ここにいるのはカッコ悪いから、そろそろ後輩に譲ったら?」って言われて》、初めて仕事場を持とうと思い立ったという(※1)。
吉祥寺で江口が出会った漫画家たち
最初は編集者の薦めで杉並区の西荻窪に住居兼仕事場を構え、2年後の1981年には仕事場だけ隣町の吉祥寺に移した。同年に連載が始まった『ストップ!!ひばりくん!』の舞台も、地名は出していないが西荻窪・吉祥寺周辺で、主人公のひばりくんは吉祥寺の高校に通っている設定だった(※2)。その後も『エイジ』や『ご近所探険隊』などの作品で吉祥寺を舞台としている。得意とする女の子のイラストも、吉祥寺の街で観察したり、時には軽くスケッチしたりして描いているという。
かつてマンガの登場人物の服は記号として描かれるのが常であったが、江口はそれを打ち破り、現実のファッションを作品に採り入れた。彼いわく《僕が若いころって、漫画の主人公はいつも同じ服着てましたよね。それが僕には許せなくって。この主人公ならこういう服を着るはずだって考えるのが楽しかったですね》(※3)。
江口がそんなふうにリアリティにこだわるようになったのには、『ひばりくん』の連載が始まる直前、やはり吉祥寺に仕事場を持つ大友克洋と知り合ったことも大きい。それまで江口はギャグをつくることに夢中で、絵には興味がなく、自覚がないまま描いていた。だが、大友がタバコの煙ひとつとっても本物をしっかり見て描いていたことから、絵には観察と理解が大事だと学んだという(※4)。