「いやぁ矢野はエンターテイナーだな! ここで使うなんて!」
さぁ試合はというと、佐藤輝明選手の犠飛に続いてサンズの本塁打、新キャプテンの大山選手のタイムリーで着実に点を重ねていった。「ファンを喜ばせる」という矢野燿大監督が魅せたのは3対2と1点リードで迎えた7回裏。今シーズンの勝ちパターンは誰だろう。前のめりになったファンの耳に入ってきたのは「ピッチャー石井大智」のアナウンスだった。開幕戦で初登板、しかもリードはわずかに1点。ルーキーには酷な状況に思えるがスタンドは大盛り上がりだった。
秋田工業高等専門学校から高知ファイティングドッグスに入団し、ドラフト8位で阪神に指名された異色の経歴を持つルーキーの起用に虎党たちは「がんばれ!」。開幕2週間前に矢野監督にインタビューをしたとき、「石井はずっと評価してる。投げるボールもそうやけど、メンタルもしっかりしているんで」と指揮官は大きな期待を寄せていた。さらには「(佐藤)輝と新人王を争ったら面白いなと思う」とタイトルまで狙える投手だと評価していた。
その石井大智はプロ初のアウトを3番山田哲人から三振で奪う好スタート。「阪急の山田久志が帰ったきたじゃん! 山田のシンカーですよ! いいぞ石井!」午後7時半のアルコール飲料の販売時間を過ぎても、ファンは2021年の阪神に酔いしれていた。しかし、石井は4番村上に四球、6番塩見に適時打を浴び、開幕投手・藤浪晋太郎の勝ち投手の権利を消すことになってしまった。それでもファンは大興奮「ここで石井! いやぁ矢野はエンターテイナーだな! ここで使うなんて!」ベンチでは追い付かれた石井大智の横に藤浪晋太郎がそっと歩み寄っていた。同点となっても、球場の雰囲気は最高だった。8回にサンズのこの日2本目の本塁打で勝ち越し。2年ぶりの開幕戦白星を挙げた。
試合後、選手の両親たちはヒーローインタビューを受けるサンズの姿を「ありがとう」と言わんばかりの表情でみつめていた。
開幕戦をファンとしてスタンドで観戦したからこそ見えたもの。家族もファンも、みんな選手、そして阪神のことが大好きでたまらないのだ。だからこそ、ファンも我が息子たちに温かいエールを送ろう。翌日翌々日も勝って開幕3連勝。36年ぶりの日本一に向けて好スタートを切った。11月、“家族みんな”で勝利の美酒を味わいましょう。
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