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広島・鈴木誠也の靴下「試合中に見えなくなる問題」について考える

文春野球コラム ペナントレース2021

2021/04/18

 流行は繰り返す。

 昭和の終わりに絶滅したものと思っていた短め丈の靴下を、近頃街を歩く女子高生が好んで履いている。この調子でいけば、令和の世に再びルーズソックスブームが起こるかも知れない。

 野球界も同様である。ユニフォームのアンダーストッキングを見せて履くか否か、見せるとしたらどのくらいの割合で見せるかは、時代によって流行がある。1980年代の野球選手が一様に履いていたびよーんと伸びたストッキングや、2000年代に多く見られた自分のかかとで踏んづけそうなほどのダブダブ裾のズボンは、今ではほとんどお目にかからなくなった。しかし上記の理論でいけば、将来必ずやびよーんストッキングやダブダブ裾ズボンの再流行があるはずで、その兆候に注目していきたいところだ。

 そのような中、野球創成期からの着こなしである、ひざ下までカラーストッキング(以降、靴下と呼ぶ)を伸ばして履くオールドスタイルは、近年その勢力を伸ばしつつある。これも再流行の動きの一つとみてよいだろう。

鈴木はなぜ試合中に靴下を見えなくするのだろう

 カープにおいても靴下派が徐々に増えている。既にカープには菊池涼介・田中広輔という常にオールドスタイルの「鉄壁の靴下二遊間」がいるが、3年目の小園海斗・羽月隆太郎・大盛穂、ルーキーの矢野雅哉といった若い野手達も次々と靴下を伸ばすことを選択し、気がつくと内野全員が靴下、などということもある。体格の良い男性集団が揃って赤い長靴下を履いている姿は、どことなくスコットランドのバグパイプ隊を思い起こさせる。

バグパイプ隊 ©iStock.com

 一方でストレートのズボンの裾をかかとまで伸ばし、靴下の存在を微塵も感じさせない選手もいる。松山竜平や西川龍馬などがそうだ。この非靴下派の一人が曽根海成であるが、私個人の意見としては、曽根はどちらかというと靴下の方が似合っているのではという印象だ。

 また普段は非靴下派ながら、ときおり靴下派になるタイプの選手もおり、長野久義や新外国人のクロン、そして鈴木誠也がこれにあたる。このような気まぐれ靴下派は、「今日は靴下なのかな」というドキドキ感と、実際に靴下姿だった時の「レアな姿を見た喜び」とをファンに与え、エンターテイナーとしての役割をも果たしている。

カープの理想的内野陣(靴下的に) ©オギリマサホ

 ところで、気まぐれ靴下派が日によってオールドスタイルをとる理由とは何なのだろうか。鈴木の靴下姿がしばしば見られるようになったのは2017年7月のことで、やはり多くの人が気になったのか、同月のテレビ番組でこの話題が取り上げられた(テレビ新広島「全力応援スポラバ緊急特番」2017年7月29日)。時折オールドスタイルにしている理由を問われた鈴木は「楽だから」「動きやすいから」「気分です」「メジャーの選手見てかっこいいからやろうかと」と答えていた。「楽で動きやすい」というのは靴下派の多くの選手が答える理由でもあり、ならば常に靴下で良いのではないかとも思うのだが、だからこそ気まぐれ靴下派の理由の大半は「気分」にあるのだと思う。

 ではこの2017年の鈴木の「気分」とは何だったのか。その前年、「神ってる」活躍でカープ25年ぶりのリーグ優勝に貢献した鈴木は、開幕10試合目で4番に抜擢された。6月14日のオリックス戦で前年に続きサヨナラ本塁打を放つなど、傍から見れば十分な活躍をしているように見えたが、得点圏打率が低いことや6月の月間打率が3割を切ったことなど、「4番としての働き」が果たせていない、という思いが本人にあったのではないだろうか。靴下はその「気分」を変えるアイテムだったのだ。

 ところが、である。鈴木はしばしば、一試合の中で靴下を変化させることがある。そのほとんどが「試合開始時は靴下だったが、試合途中でズボンを伸ばして靴下が見えなくなる」パターンだ。このようなケースは他の選手ではあまり見たことがない。一試合のうちに鈴木が靴下→非靴下となった試合は、確認できただけでもこの5年間で4試合ある。鈴木はなぜ試合中に靴下を見えなくするのだろう。