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最初から全てを知ってしまうより、知らない部分が多い方が楽しいことだってある

 いろいろ思うところはあるが、とりあえずスポナビが好きなのは本当だ。友達と外出している時なども、トイレや喫煙所でひとりになったらすかさずスマホを取り出してスポナビを確認する。

 最初に観るのは現在のスコア、そして打者成績だ。どの選手が何打数で何安打、何打点というのをスコアボードと見比べ、なんとなく点が入った流れを想像する。たとえば松山選手の打数が他選手より1つ少なくて打点に1がついていたら、多分3回のここで犠牲フライ打ったんだろうな、といった風に。その後、試合経過をチェックして予想が当たっていたら嬉しいし、予想と違っていてもそれはそれで「へ~、なるほど」などと思う。

 そんな時間が私はけっこう好きだ。文字や数字といった限られた情報から試合の流れを想像する楽しみもあると思う。最初から全てを知ってしまうより、知らない部分が多い方が楽しいことだってある。最近はめっきりなくなったが、昔はCDのジャケットやディスクレビューだけでどんな音楽が鳴っているかを想像してわくわくした。今思えばあれは贅沢な時間だった。

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 スポナビを観た後、改めてテレビのスポーツニュースで試合のダイジェストを観ると、プロの動きのダイナミックさをより実感できる。映像で観ると自分の想像と結構違っていたりもして、好きな小説や漫画の実写化を観た時の感情に近い。そのような段階的な楽しみ方ができるのもスポナビの利点と言えるだろう。

自分はカープファンを名乗れるラインに達していないのではないかと長年思っていた

 そう言えば、自分がカープファンだと実感できたきっかけもスポナビだった。

 小学2年か3年頃から一応カープファンを自称している私だが、自分はカープファンを名乗れるラインに達していないのではないかと長年思っていた。『はだしのゲン』に出てくる、カープのことですぐカッとなり殴り合いの喧嘩をするカープファン。自分とは熱量が全然違うと子供心に思った。スポーツニュースに映る、球場で赤い風船を飛ばしたり、声を張り上げる人たち。ああいうことも私はちゃんとやっていない。

 しかし今から4~5年くらい前のこと。その日は人とうまく話せなかったか何かで気が塞ぎ、酒をあおっていた。何気なくスマホを取り出しスポナビ野球速報をチェックしたところ、カープも試合に敗れている。その時「なんだよクソッ、カープも負けるしよお!」という言葉が思わず口をついて出た。驚いた。感情の起伏に乏しい自分が、カープが負けたことをこんなにも自然に悔しがるなんて。その瞬間、なんだ、俺ってけっこうカープ好きじゃん、と嬉しくなったのを覚えている。

 やっぱり私にはスポナビが合っているのかも知れない。ただ最近は客としてNPBに全くお金を落としていないのが少々気がかりだ。だから基本は今までどおりスポナビで応援しつつも、今年は改めて何度か球場にも足を運びたいと思っている。最近は歳のせいか昔に比べると人の目が気にならなくなって来たので、前より自然に応援できると思う。現地で観戦している間もスマホを頻繁に取り出しスポナビばかりチェックしてしまいそうなことだけが少し不安だ。

 吉田靖直(トリプルファイヤー)

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